「イベントレポ」パク・チャヌク監督最新作『別れる決心』 作家桜庭一樹 × コラムニスト山﨑まどか 本作への愛を語り尽くす! 「両想いが必ずしもいいわけではなく、それが生んだ悲劇もある」

いよいよ来週2月17日(金)に公開を迎える、日本中のファンから注目が集まるパク・チャヌク監督最新作『別れる決心』。公開直前の昨日2月8日、都内にてスペシャルトークイベント付き試写会を開催致しました。今回イベントに特別ゲストとして登壇したのは、作家・桜庭一樹と、コラムニストの山崎まどか。共に『別れる決心』に絶賛コメントを寄せる二人だが、初めて作品を鑑賞した感想を桜庭は「ちょうど、人とのコミュニケーションは、話したこと以上に“言わないこと”で成り立っているよね、という話をしていた時に『別れる決心』を観たので、劇中の2人の間で言わないことがすごく多い映画だなという印象でした。映画では相手の言わなかったことを自分で補完しながら観るけれど、それはあくまでも自分の想像なので、観ている人によって違うだろうし、それぞれの解釈になっていくんだろうな、と。この映画は特に、観る人によって全然感想が違うので、それがまた面白いなと思いました」と本作ならではの楽しみ方を語る。続いて、ソレとヘジュンの関係性について山崎から聞かれると、ヘジュンが髭を剃りながら車を運転してソレのところに向かうシーンを挙げ、「言葉では何も言わないが、髭を剃って彼女のところに向かうということで、彼女をかなり意識していることがわかる。そういう細かい部分で、未だにすごく気になるところがたくさんある映画」とまだまだ鑑賞し足りない様子。それを聞いた山崎は、「劇中で“愛している”という言葉が全然出てこないのに、相手には伝わっているシーンがある。お互いの思惑や気持ちで、成り立っている関係性」と、言葉ではなく表現される二人の関係性を説明した。


桜庭は本作を観て強く感じたこととして、「この作品では、女性が外国から来た人で、経済的にも辛かったり、立場がすごく弱い側で、一方で男性はその国の人で、刑事で、立場の強い側にいますよね。その中で立場の弱い人が自分を守るために一生懸命やっている行動は、本人にとっては合理的なのに、立場の強い側の人からはすごく謎の行動に見える。“ファム・ファタール”(謎の女/宿命の女)みたいに見えるのだなと思った」と本作での気づきを明かす。山崎は「昔のノワール映画に出てくる、一見謎めいた女の実像に、今の私たちは気づくことができる。男がルールを決めている社会で、苦しい立場にいる女がゲームをするとき、何をしたらいいのか。主導権を握って生きるにはどうしたらいいのか。今作にはそんな女のあり方が組み込まれているところも新しい」と語る。桜庭は「それで思いだしたが、女性の歌人の方のエッセイで、昔の小説に出てくるようなファム・ファタールのことを昔は理解できないと思っていたと書いてあった。でも、自分が男性の求愛を断ったら、弄んでいると非難されて辛い思いをしたとき、あのファム・ファタールも断っていたのに小説の書き手の男性から理解されなかっただけではないかと思った、と」と大きく頷く。

そんな“ファム・ファタール”を演じたタン・ウェイについて桜庭は「女優さんが素晴らしくて、立場は弱いが人間が弱いわけではない。怯まない独特の存在感があり、目が強い」と大絶賛。山崎も「タン・ウェイが演じる役は必ずしもいつも強者ではないが、その中にある女性の強さをものすごく表現できる人。そしてすごくパク・チャヌクの映画らしいヒロイン。パク・チャヌク監督が、未来のクラシックとして残る映画を意識したという通り、タン・ウェイが演じたソレという役は過去のファム・ファタールからの系譜を感じさせる」と大絶賛。若尾文子やヒッチコック映画のヒロインにも触れながら、「正統派のヒロインの感じがありながら、新しい」と改めて強調した。

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2023.02.10