劇中、感情を表に出さないヘジュンと自分の意思をはっきり伝えるソレの関係性を表現するためのアイテムについても語った。
「ソレが頭にヘッドライトを付けてヘジュンを照らすシーンがありますが、向かい合うと夜であってもどうしてもヘジュンは煌々と照らされてしまい表情を隠せなくなります。強いライトで照らされたヘジュンというのは、気持ちも何もかもあからさまになってしまいます。普段は自分の感情を表現したくない、感情を隠したい気弱なところがあるのですが、ソレという強い光を放つ女性の前ではそれすらも叶わない。すべてが丸裸になってしまう、すべてを隠せなくなる、そういった2人の関係性を表現したかったんです」。
主人公の些細な動作や台詞の間の空け方にもこだわり、複雑な感情を表現していった。監督にとって印象に残っているシーンについて聞いてみると。
「ヘジュンの場合は、劇中の最初のほうのシーンで、死体安置室にソレがやってきて、そこで初めて対面します。その時にヘジュンをクローズアップで撮っているのですが、女性をしばらくの間じーっと見てから、『暗証コードを教えてください』と一言言うシーンがあります。撮影前にパク・へイルさんに、『ここは女性を長めに見てからセリフを言ってほしい』とは言ったのですが、いざ撮影してみたらあまりにも長い間じーっと見つめたままだったので、台詞を忘れたんだなって思ったんです(笑)。長くもない短いセリフなので、それも忘れたのか、情けないやつだなど内心思っていたのですが、それは彼自身が計算して演技していたことだったので驚きました。それからソレの場合は、映画を大きくパート1と2で分けたとすると、パート2の警察署による取調室でのシーンです。私はこの映画の中でもここが一番素晴らしいと思っています。ヘジュンの質問に答えるときに、自分自身のことを『すごく可哀想な女ね』という台詞があるのですが、その時の彼女の表情がとても悲しくもあり愛らしくもある素晴らしい演技だったと思います」。
監督が語る通り、ソレのその韓国語の台詞は映画が見終わっても頭の中に残るほど印象的な台詞だった。外国なまりの韓国語ではあったが、その表情と台詞は深みがあった。韓国語がある程度わかった上で、わざと外国語なまりの韓国語の発音にしているのかとも思うような演技を見せてくれたが、タン・ウェイは韓国語がまったくわからない状態から始まったそうだ。
「外国語で演技をするとなると、台詞を音として完全に覚えてそれを発して演技をすることが多いのですが、タン・ウェイさんはこだわりが強く、私はそんな風にはできないと言って、実際に文法から韓国語の基礎から学んでいました。ですので、この単語はどんな意味なのか、このシーンではどうしてこの単語ではなくこっちの単語を使うのかということまで納得したいタイプの方でした。また、相手の台詞も理解して覚えて演技に臨むような方でした。ですので、きっと嫌になってしまうほど時間もかかるし大変な作業だったと思いますが、それをして臨んでくれました。彼女が発する韓国語は完璧に発音することができずにつたない部分があるので、誰が聞いても外国の方が言っているとわかるのですが、文法的に言えば完璧にできていました。劇中、彼女は時代劇を見て韓国語を覚えているので、普通の韓国人よりもむしろ優雅で品のある言葉づかいをしています。実際は文法の勉強から始まったのですが、先生を2人つけました。一人は文法をきちんと教える先生、もう一人は演技もできる先生でした。それから、演劇俳優である女性にすべて演技指導した上で劇中のソレが発する台詞を録音してタン・ウェイさんに渡しました。あとはタン・ウェイさんがどうして必要としたかわからないのですが、監督が言った台詞もほしいということで、私は男ではありますがタン・ウェイさんが言うべき台詞をすべて録音して渡しました(笑)。相手役の方の台詞もほしいということで、パク・へイルさんが演じたヘジュンの台詞もすべて録音したものを渡して、彼女はずっとそれを聞きながら練習していました」。
パク・チャヌク監督イコール、“復讐”、“暴力”、“残酷”な素材の映画を作る監督として知られているが、本作ではそういった素材を封印して“愛”をテーマにした作品になっていることでも話題となっていた。監督は「今まで作ってきた作品のほとんどの作品はすべていろんな形での愛情が盛り込まれています」と語る。
「私が本作を作ったあとに皆さんとお話しをするとき、今までもそうであったように今回もまた新しい愛の映画を作りましたと言ったら、みなさん笑ったんです。でもそれは皆さんを笑わせようと思って冗談でお話ししたわけでは決してありませんでした。『オールド・ボーイ』は復讐劇の代表作と言われる作品ですが、その作品も愛情を描いていますし、それ以外の『渇き』や「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」もそうですし、今まで作ってきた作品はすべていろんな形での愛情が盛り込まれています。実際そういう話しをすると、なんでみんなが笑うのかと数年前から考えていました。考えてみると、その理由は暴力やエロティシズムという肉体的な表現が強くて、内面的な愛やロマンスといった感情的な部分を観客は忘れてしまうのだと思いました。なので、今回の作品ではみんなが『愛の映画を作った』と言ったら笑われることはないように、暴力やセクシャルな表現は抑えました。今回『別れる決心』という映画を作ったので、また『オールド・ボーイ』のような作品を作ったとしても、また新しい形の愛の映画を作ったのだと思ってもらえるようにしたいです。そう言ってもらえるのか楽しみにしています」。
本作は「霧」という歌謡曲から生まれた作品。映画の中の音楽についてもこだわっていた彼は、登山のシーンでマーラーの交響曲第4番と第5番が使われている。クラシック愛好家としても知られている監督に最近聴いている曲についても聞いてみた。
「クラシックやジャズをよく聴くのですが、ショスタコーヴィチの交響曲が好きです。いつも聴いているのはベートーヴェンの弦楽四重奏をよく聴いています。それから、ジャズは昔の曲を・・・。ハード・バップ時代(1950年-1960年)の曲もよく聴きます。K-POPはよくわかりませんが、娘がLE SSERAFIMというガールズグループが凄いと言っていたので、一緒にミュージックビデオを見たりしています(笑)」。
そんな風に優しい笑顔で話してくれた監督。本作は監督の娘さんが好きなLE SSERAFIMの先輩にあたるBTS(防弾少年団)のRMも何度も鑑賞したことで話題になっていた。また、本作をモチーフに「2022 MAMA AWARDS」でヒョリンとBIBIがコラボステージを披露し、K-POP歌手の間でも注目されている。
映画とはまた異なる表現で若者に監督の作品が伝わることについて監督は「BTS(防弾少年団)のRMも何度も見たと言ってくれていましたし、若い世代の方がこの映画を理解して好きになってくれるのは私にとってはとてもありがたいことです。この映画は古典的なスタイルの映画なので、最近の映画に比べたら刺激も少ないですし、ストーリーの展開もゆっくりで感情を正直に表現しないもどかしい人々の話なので、若者が見た時に退屈だと思ったらどうしようかと心配に思っていました。でも、K-POPアーティストや若い世代の方々が私の映画を好きだと言ってくれてとても感謝しています」と伝えた。
『別れる決心』
惹かれ合う刑事と容疑者は、1つ目の殺人で別れ、2つ目の殺人で再会する。
アカデミー賞とカンヌ国際映画祭を魅了した今年最高のサスペンスロマンス
【STORY】
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレは捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった・・・・・・。
2023年2月17日(金) 全国ロードショー
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:헤어질 결심|2022年|韓国映画|シネマスコープ|上映時間:138分|映画の区分:G
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[配給・宣伝]ハピネットファントム・スタジオ