(本文・訳者あとがきより抜粋)
BTSはいかにK-POPを超え、世界の人たちを動かしたのか。
本書は世界中のメディアとファン、そして研究者たちが挑む命題に、「K-POP」「トランスメディア」「世代」「ファンダムARMY」「人種」「ジェンダー」というキーワードで深く切りこむ。
著者は、BTSの所属事務所HYBEのパン・シヒョク代表にもっとも信頼されている学者のひとり、ソウル大学のホン・ソクキョン教授。
パン・シヒョク代表がBTSのブレークの秘密をひもとく講演ドキュメンタリー番組『明見萬里』に登場し、核心を突いた発言でファンの心を掴んだ教授が、BTSの所属事務所のサポートのもとワールドツアーに同行し、フィールドワークを実施して誕生したのが本書『BTS オン・ザ・ロード』だ。
タイトル『BTS オン・ザ・ロード』には、いくつもの意味が重ねられている。
BTSのメンバーが長いあいだひとつの道をともに歩み、困難を克服してきたこと。世界各地をめぐるツアーで歴史を築いてきたこと。そして何より、7人が前人未到の道を拓きながら成し遂げた意義を、本書が探究しようと試みていること。
グローバル化が急速に進むなか、東アジアの男性であるBTSは、人種とジェンダー政治にたいする新しい可能性として浮上した。BTSの成功は、当人たちにとって予期せぬ運命をもたらした。デビュー当初には想像すらしなかった状況のなかで彼らに新しい目的と義務が与えられ、その目標に向かって進むために奮闘すべき立場になったのだ。
「若者に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぐ」という意味を込めてつけられた「防弾少年団」が世界的な成功によって「BTS」になったいま、彼らは世界に存在する人種やジェンダーへの偏見と闘いつづける。
彼らはたんなる好奇心の対象ではなく、男らしさとジェンダーにたいする新しい想像をかきたてるルックス、人間関係、そしてメッセージを伝える媒体(medium)なのだ。BTSは新自由主義の競争のなかで奮闘する成長痛を音楽とストーリーに盛りこみ、「ありのままの自分を受け入れよう」というメッセージを生み出した。そして彼らの成功の陰には、ARMYの存在がある。世代を超えて響きあう熱い関係のなかで、BTSはARMYとともに、これからも歩みつづけていくのだろう。
今後、彼らがどんな道を選ぶかははかりしれないが、この本は彼らの足跡を理解する一助となるはずだ。
翻訳は、『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』(柏書房)、『BTSとARMY わたしたちは連帯する』(イースト・プレス)、『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)等、BTSの研究本・関連本翻訳の第一人者である桑畑優香氏。韓国に留学経験があり、長く韓流・K-POPを見つめ続けててきた桑畑氏が、簡潔なフレーズ、明確なキーワードで、読みものとして楽しめる一冊に仕上げている。
(2ページに続く)