キム・ホンソン監督:企画を始めたのは私で、作家さんと初期から作品の構成を進めました。時間をかけて練った企画です。
ドラマのタイトルを「餌【ミッキ】」とされた理由を教えてください。
キム・ホンソン監督:もともとのタイトルは「犯罪年代記」というものでした。ですが、「誰もが食いついてくる」という関係を表現する「餌」というタイトルのアイデアが出てきて、私もこれが一番作品に合うと思いました。作品を一言で表現できますからね。
本作を演出するにあたって、参考にされた映画や小説などはありますか?
キム・ホンソン監督:コーエン兄弟の『ファーゴ』ですかね(笑)。
被害額5兆ウォン(約5000億円)を超える巨額詐欺事件が舞台ですが、これは過去に実際に起きた事件、監督が描きたかった事件があるのでしょうか。
キム・ホンソン監督:チョ・ヒパルの詐欺事件*が、まず連想されるでしょうし、それと似たような詐欺事件も多く参考にしました。最近はデジタル通貨の詐欺もたくさん発生しています。心配を禁じえません。みなさんも気をつけてくださいね。
物語は、2006年、2010年、2023年という3つの時代を行きかいながら展開します。その違いを映像的に表現するのは難しくなかったですか?
キム・ホンソン監督:うーん、やはり俳優たちがメイクを通じて時代を表現しなければならないので、時間と労力がかかりました。苦労したのは俳優たちです。そして、いい結果が出たと思います。
弁護士出身の刑事ク・ドハン、稀代の詐欺師ノ・サンチョン、被害者家族の記者チョン・ナヨン、この3人は監督から見てどんな人物だと思いますか。
キム・ホンソン監督:人は誰でも自分の立場からしか物事を考えられません。そして、それが善だと思い込みます。これが、ノ・サンチョンという人物を的確に表現する言葉だと思います。ノ・サンチョンはいつも、「俺が何か悪いことをしたか?」 と言いますね。これは他人の心が分からない人たちのよくする発言です。ノ・サンチョンは共感力がない人物なのです。
ク・ドハンは、共感力に乏しいという点でノ・サンチョンと似ています。しかし、彼は変化していきます。人の心に共感できるようになり、これまでの過ちを認識するのです。私は彼のような人物が、この世界では多数派だと思います。
チョン・ナヨンは被害者意識が強い人物です。それは、当然そうなるしかない状況に置かれたからです。しかし、彼女は単純に復讐するのではなく、別の方法を選択します。彼女も共感を求める人物です。もっと言えば、この作品全体が、「私たちは生きていくなかで、どれほど他者に共感できるか?」に焦点を合わせていると思います。そうなればなるほど、社会は良くなるでしょう。
ク・ドハン役にチャン・グンソクさんを起用した意図は? 監督はグンソクさんにどのようなイメージをもたれていましたか?
キム・ホンソン監督:鋭さ、それにキャリアを重ねて手にした円熟した演技力……。いろいろなことが複合的に作用していると思います。
グンソクさんは、この役を通じてこれまでのイメージを変えたいと思ったようですが、監督はグンソクさんにどのような演技を指導されましたか?
キム・ホンソン監督:演技が上手な人には、ただ場所を貸してあげればいいのです。そうすれば勝手に遊ぶでしょう。私は「楽しもう」と言ったんです。チャン・グンソクさんはもう学ぶ段階じゃなくて、円熟を求めていく段階です。だから、そのようにやっていこうと思いました。
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