「本日未明、韓国トップスター俳優のファン・ジョンミンさんが誘拐されました」という衝撃的な設定の映画『人質 韓国トップスター誘拐事件』が9月9日(金)から日本で公開される。本作を作ったピル・カムソン監督に、初の長編映画完成の感想やキャストとの撮影秘話などについて語ってもらった。
ピル・カムソン監督は、韓国・中国合作映画『MUSA-武士』(2001)『アシュラ』(2017)などのキム・ソンス監督の作品や『結婚は狂気の沙汰』(2002)『マルチュク青春通り』(2004)などのユハ監督の作品の助監督を務め、自身では短編映画『ある約束』(2011)『Room 211』(2002)で国内の著名映画祭に招待された経歴を持っている。そして本作で、監督になってから10年目にして、長編映画の監督デビューを飾った。
本作は監督にとって初めての長編映画。まずは映画が完成し公開されたときの感想を聞いてみた。
「とても感激しました。なぜかというと、ポストプロダクションの作業中に新型コロナウイルスが発生してしまい、いつ公開できるかどうかわからない状況でした。そんな中でも公開日が決まり、公開する直前に映画を完成させられることができたので本当に感激しました。でも、ポストプロダクションをかなり長い時間やっていたので、本当に終わるのだろうか本当に公開できるのだろうかと実感がわきませんでした」
『人質 韓国トップスター誘拐事件』は、韓国映画界を牽引する大物俳優が、誘拐事件の人質となるトップスターを実名で演じた前代未聞の“リアル”サスペンス・アクション。主演俳優のファン・ジョンミンは、これまでにヤクザや刑事役など強靱な男性の役を演じてきたが、本作では人質になる役だ。劇中、ファン・ジョンミンは人質になり拘束された状態、上半身だけで感情を表現しなければならなかった。監督はそういった表現力や被害者としてのファン・ジョンミンの新しい顔、最も弱い立場に追い込まれて極限の状況の中でどういう演技を見せてくれるのかという思いから、シナリオ段階からファン・ジョンミンを念頭に置いて書いたという。
「最初にシナリオを見せた時はとても緊張しました。ファン・ジョンミンさんに『いや、これは僕じゃない、これはできない』と言われたら最初から書かなければならないので大変なことになってしまいますよね。でも幸いにもすごく楽しんでくれました。ファン・ジョンミンさんは意志が強いイメージを表現しながらも、一方では弱いところを見せてくれました。ただ弱いといっても決して屈服はしない、でもそういう中で弱いエネルギーも同時に見せてくれたと思います。強いイメージと弱いエネルギーが衝突し合っていたと思うのですが、それが自然に感じられました。私たちが今まで知っているファン・ジョンミンのイメージの範疇から大きくはずれてはいないけど、その中でも新しい魅力を見せてくれたと思います」
撮影中、ファン・ジョンミンは「実際に自分だったらどうするか?」と悩みながら、アイディアもたくさん出して演じていったそうだ。
「ファン・ジョンミンさんは積極的にアイディアをたくさん出してくれました。コンビニの前で誘拐犯と初めて接触するシーンがあるのですが、私が書いたシナリオには、『犯人がファン・ジョンミンのことを刺激するが、怒りをこらえて避けてしまう』と書いていました。でもファン・ジョンミンさんは『自分だったら避けずに罵倒するようなことを言うだろう』と言ってくれて、そっちの方が自然だと思い修正しました。そのシーン以外にも本当にたくさんのアイディアを出してくれたので、一緒に作業してとても楽しかったです」
ファン・ジョンミンを誘拐する犯人役は、ドラマ「梨泰院クラス」のリュ・ギョンスやミュージカル界のトップスター キム・ジェボム、そしてファン・ジョンミン誘拐前に拉致された女性役を「イカゲーム」のイ・ユミが演じている。1000人以上のオーディションによって選出された実力ある役者たちだ。中でも誘拐犯グループのリーダー役キム・ジェボムは、感情を一切表に出さず、目的のためなら手段と方法を選ばない恐ろしい人物を演じている。
「キム・ジェボムさんは映画にあまり出演されてはいませんでしたが、ミュージカルや演劇ではとても有名な方で、名声は聞いていました。実際にオーディションに来てみたらとても怖かったです(笑)。彼の目の色が若干グレートーンなのですが、最初はカラコンを入れていると思いました。でも本人の目の色だそうで、特殊な目の色をされていました。何を考えているかわからないような、悪役ではあるけど悪役に見えないように演じてほしいとお願いしたところ、そういった役が一番上手く表現できると思いました。この映画を観た観客の中の一人のコメントで、コンビニのシーンで出てきた時は彼が誘拐グループのリーダーだとは気付かなかったけど、あとになって誘拐犯のリーダーと知って怖くなったとありました。そのコメントを聞いて私はとても嬉しかったんです。それがまさに私の意図したものでした」
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