「コラム」康熙奉(カン・ヒボン)のオンジェナ韓流Vol.119「『梨泰院クラス』の母性喪失」

女性視点のストーリーが普通

チャン・デヒの妻についてもまったくドラマの中では触れられていない。バカ息子のグンウォンの母親になる女性だが、本来なら、チャン・デヒが裸一貫から財閥のオーナーになるまでに内助の功を発揮したはずだ。
たとえ死別したとしても、ドラマのどこかにはかならず思い出に出そうなものだが‥‥。
対照的に、グンスの母親は愛人として少し出ていたけれど。それなのに、グンウォンの育ち方に決定的な影響がある母親は素性すらわからなかった。
このようにパク・セロイの母親とチャン・デヒの妻は、無視されたままだった。
韓国ドラマであれば、母親や妻はたとえ死んでいたとしても、しつこいくらいに触れるのが当たり前なのだ。なぜなら、どの韓国ドラマも、女性視点でストーリーが描かれることがほとんどで、母親や妻というのは男性主人公に決定的な影響を与えるものだからだ。

しかし、『梨泰院クラス』は登場人物たちの母性の喪失が顕著だった。唯一、チョ・イソの母親だけはドラマに出てきて、娘に厳しい小言を言い続けるのだが‥‥。
パク・セロイの母親やチャン・デヒの妻が、たとえ出てこなくてもストーリーに影響がないにしても、母性の喪失は韓国ドラマでは異例だった。
パク・セロイの母親とチャン・デヒの妻はどんな人物だったのか。それを想像してみるのも『梨泰院クラス』の変わった見方かもしれない。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

2020.07.04