続いては、中国からの留学生の男性からの質問。男性は本作が描き出す、家族ではない人々が家族のような人間関係を築いていくところに「感動しました」と語る一方で、人身売買は深刻な犯罪であり、現実のブローカーは、映画に出てくるような優しいクリーニング屋ではなく、危険な犯罪者であると語り「ロマンチックなキャラクター設定が、犯罪を美化し、映画のリアリティ、社会性を弱くしてしまう部分もあるのでは?」と問題を提起する。
是枝監督は「『万引き家族』の時も『万引きを肯定するのか?』という意見はありました」とふり返りつつ、「どう思いましたか?」と男性に質問。男性は「『万引き家族』のキャラクターたちは人間の複雑さをよく表現しているけど、今回の是枝さんは優しいと思います。(登場人物たちは)みんな優しくて、ひどいことはあまりしないし、僕も感動しました。でもドラマと現実のバランスはどう思いますか?」と応じる。
是枝監督は「僕が(犯罪を)許しているというよりは、サンヒョン(ソン・ガンホ)は自分なりの倫理観で、そばには戻ってこないという結末にしました。『法を犯すこと』と『倫理的に生きようとすること』はイコールではなくて、僕にとっては倫理のほうが大事なんです。(映画の中に)法を踏み外す人は結構出てくるけど、自分が描きたいのは、そこ(法を犯すか否か)で生きている人間ではなくて、別の基準(=自分なりの倫理観)で生きている人なんです。ソヨンが自分でも言っているように、この事件がニュースになったら『売春婦が…』と言われるわけで、みんな社会から断罪されることになるでしょう。だから、そうではない目で僕が描き、そうではない目でみなさんに観ていただくことで、それは別に犯罪を許しているというわけではないと思って作っています」と真摯に疑問に対し向き合った。
トークの最後に鈴木さんは「僕は今年50歳になりまして、父が亡くなったり、大事な友達がいきなり逃げちゃったり、生きているといろんなことがあります。人生のいろんなタイミングでどの映画・物語と出会うかって大事なことだと思っていて、いまの僕がこの物語に出会って、家族のことを考えたりするというのが、僕にとってはすごく素敵なことでした。この映画を観て感動する人はたくさんいると思いますが、この映画が人生にとって必要な人もたくさんいると思うんです。この映画がそういう人と出会えることを強く願っています」と呼びかけた。
是枝監督は、鈴木さんの言葉に「良い言葉をいただきました」と語り「自分で映画を作っていて、一番思うのはそういうことで、観た人の人生に必要とされる映画を作りたいと思っています。それは、自分が観てきた映画もそうで、観た瞬間にそう思うわけじゃなく10年くらい経って見返した時に、自分の中でのその映画の価値や意味が変わっていくという経験をしばしばするものです。自分が父親を失くしたり、父親になったりしたことで、前に観た映画の感慨や感情が変わる――映画って、人生の節々に寄り添ってくれるものなんだなと思います。自分の映画がもし、そういうものとして、みなさんのそばに置いていただけるのであれば嬉しいですし、これからもそんな映画を作っていけたらいいなと思っています」と語り、会場は温かい拍手に包まれた。
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