映画と舞台のコラボレーションプロジェクト第3弾となるフォトシネマ朗読劇「命のバトン」が4月14日(日)、東京・労音大久保会館R'sアートコートにて上演され、大盛況で終幕を迎えた。
先日映画化が発表され話題となった本作は【看取り士】がテーマとなっており、逝くものが、残るものへとつなぐ想いを表現した作品。
本作には石渡真修、高城亜樹、久保田秀敏、野村宏伸が出演し、テジュは留学生ソンホを演じている。
時は1988年、韓国で開かれるソウルオリンピックを間近にして最高の盛り上がりを見せていた。そんなある時、学生時代の友人・小林(久保田)に呼び出された英雄(石渡)、花村(高城)、ソンホ(テジュ)。学生時代に部活で陸上をしていた4人は、小林の提案で韓国にオリンピックを観に行くことに。出発当日、空港に向かう電車の中で英雄の体調が急変する。空港に向かっていたはずの英雄が目を開けると、そこは病院のベッドの上だった。そしてそこで小林から初めて“看取り士”という言葉を聞く。それから15年後。英雄の父親、和彦(野村)の病気が発覚。すい臓がんで余命半年という診断だった……。
ステージには5人の椅子と小さな箱、マイク、スクリーンが用意されている。暗転すると、スクリーンには偉人の残した一節とともにナレーションが読み上げられる。ステージが暗転されたまま5人がゆっくりとステージへ、各々が手に持っていたものを椅子の前にある箱に置き、物語が始まった。置かれたのは、物語のキーとなるであろうリンゴだった。出演陣がセリフを発するタイミングで、彼らの背後のスクリーンではシーンとなる写真が映し出される。想像力を駆使する朗読劇とはまたひと味ちがう新鮮な演出だ。
同級生を演じた4人は千秋楽とあってか、本当の友達のようにチームワークが抜群で、息のあったやりとりを展開する。英雄の父親役である野村は、若手俳優の中で唯一のベテランとしての存在感をいかんなく発揮。息子への思いを切実に語り、観客の心へセリフを沁み込ませた。
英雄が東京で経営している居酒屋のバイト役として登場した高崎は、イマドキの若い青年をコミカルに演じ、観客の笑いを誘い、その魅力で引きつけた。
朗読劇ながら、白熱するシーンでは互いに顔を向き合わせたり、身振り手振りを付けたりと、小道具など何もない“自身”という武器ひとつでそれぞれが表現を巧みに見せる。気がつくとその世界観にすっかり入り込んでしまっていた。
和彦の想いを、英雄は“看取り士”から聞くこととなったのだが、彼の後悔や大好きだった父への想いがひしひしと伝わり、観客の涙腺を容赦なく揺さぶる。90分という時間だったが、とても濃厚で深い余韻を残す作品であった。
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