「イベントレポ」「ベイビー・ブローカー」是枝監督恒例ティーチインでファンからの質問を語りつくす!「イ・ジウンさんは、声が良いんだよなぁ…」撮影の裏話から来日時のキャストとのエピソードまで!

7月7日(木)に、新宿バルト9にて現在大ヒット中の映画『ベイビー・ブローカー』の是枝裕和監督登壇ティーチインイベントを実施。

上映後の穏やかな空気の中、是枝監督が姿を見せると劇場は温かい拍手に包まれる。是枝監督は過去の作品でも、公開後に観客との質疑応答を頻繁に行なってきたが、ここ数年はコロナ禍でなかなか開催できず今回、ようやく開催が実現した。是枝監督は「久しぶりにこういう会ができて嬉しいです」と笑顔を見せた。

最初の質問は今回、是枝監督が韓国人のメインキャストに撮影前に“手紙”を書いて渡したということについて、その意図を問うもの。

是枝監督は「手紙はよく書きます。フランスで(『真実』を)撮った時、言葉が通じないぶん、自分が考えていることや悩んでいることについて、文字を相手に残す――手紙として書いてお渡ししたら、それがよかったんですよね。今回はお手紙も書きましたし、普段は(登場人物たちの)プロフィールを省いてしまうことも多いんですけど、それをちゃんと書いてみようと思って、メインの方たちに、(登場人物たちが)どういう生い立ちで、ここに至るまでにどういう経験をしてきたのかをまとめて渡しました。日本でもやりますけどね。文字に残すことで、悩んだ時に役者が読み返すことができた方が、いいのかなと最近、考えるようになりました」と明かす。

続いての質問はタイトルについて。英題、韓国語のタイトルが共に「BROKER」であるのに対し、邦題を『ベイビー・ブローカー』としたのはなぜなのか?

是枝監督は「最初に2016年に書いた短いプロットのタイトルは『ゆりかご』でした」と明かしたが、これはこのプロットを書き始めた際に、監督が“赤ちゃんポスト”として最初に認識した施設が、日本初の赤ちゃんポストを設置した熊本市の慈恵病院であり、同施設が赤ちゃんポストについて「こうのとりのゆりかご」という名称を使用していることに由来するもの。

さらに是枝監督は「韓国を舞台に企画を動かし始めてからは、『ベイビー(BABY)・ボックス(BOX)・ブローカー(BROKER)』と3つの「B」で始まる単語を並べたタイトルにしていたんです。「赤ちゃん」と「箱」と「赤ちゃんを売る人」の話であり、この3つをどう動かしていくか? ということでつけたタイトルでしたが、この3つのうちの1つを残すか? 2つを残すか? ということで、『ブローカー』はシンプルで好きですけど、あまりに内容がわかりにくいという意見があって、そういう意見には最近、素直に従うようにしています(笑)」と『ベイビー・ブローカー』になった経緯を説明した。

ちなみに、タイトルをよく見ると、文字と文字がそれぞれ細い糸のような線でつながったデザインになっているのがわかるが、これは「ミシンの縫い目がつながっている感じにしています」と主人公のサンヒョン(ソン・ガンホ)が古びたクリーニング屋を経営しており、ミシンが登場することにちなんだものだと明かし「僕が考えました(笑)」と是枝監督が語ると、客席からは拍手がわき起こった。

小学生の頃から是枝作品のファンで、現在は俳優を目指しているという女性からは、監督が子役をオーディションで選ぶ際のポイントについての質問が飛ぶ。

是枝監督は「基本的に、その子を撮りたいと思うかどうか。『この子、撮りたい』と思った子を選んで、上手いか下手かというのは後からついてくるもの。子役の演出はどうやっても大変なので『この子のためにもうひと頑張りしたい!』と思えるかはスタッフも含めて大事です。オーディションでもカメラを手に、ファインダーを覗きながら決めます。基準や『こういうことできたら合格しやすい』というのはないです」と語る。

今回、主人公たちと旅を共にする少年・ヘジンを演じたイム・スンスについては、監督は「(これまで接してきた子役の中で)一番、言うことを聞かなかった」と苦笑い。「韓国は子役事務所があまりないので、オーディションに集めた子たちは、地元の演技塾みたいなものに通っている子がほとんどで、プロっぽくないんです。台本を渡さずに通訳さんを介して口伝えでセリフを渡してやってみて、『一番大変だろうな…』という子に惹かれてしまう、どうしようもない自分がいました(苦笑)。スタッフに『やめた方がいい』と言われるんですけど、そう言われると固執したくなるんですね。ただ今回ばかりは、さすがに後悔したくらい、大変でした」と苦労を振り返る。

ただ、苦労のかいもあって、彼の演技については「映っているものに関しては、本当に素晴らしい! 出来上がって癪に障るくらい(笑)。ビックリしました」と惜しみない称賛を送る。「脚本を読んでないのに、旅がソウルに近づくにつれて、なんとなくみんなとのお別れなのをあの子もわかり始めるんですね。そうすると、演技が変わってきたりするんです。どこまでわかってやっていたのかわかりませんが、魅力的でした」と明かした。

また韓国はもちろん、日本でも絶大な人気を誇るイ・ジウンの出演シーンについて「監督が一番好きなシーンは?」という質問には「ホテルから出かけていく時に、ドンス(カン・ドンウォン)に『傘持って迎えに来て』と言って、『イヤだよ』と言われて『行ってきます』と出かけていく時の表情」とピンポイントで回答!

質問者の男性が終盤の「ホテルで“あのセリフ”を言う直前の、電気を消す前のワンショットの表情が好きです」と語ると、監督は「あのシーン、後ろにある鏡の中に切り抜かれたように彼女の顔が映っているんです。いいでしょ?」としてやったりの表情で語り、「イ・ジウンさんは、声が良いんだよなぁ…」とうなずく。

さらに、小学生の頃からイ・ジウンの大ファンだという女性から先日、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン、イ・ジュヨンが来日した際に、一緒にどんなことをしたのか? という質問を受けると、是枝監督は「僕の映画でずっとフードスタイリストをやってくれている飯島奈美さんが、(彼らの来日に際して)『ぜひ作らせてくれ』とおっしゃってくれたので、飯島さんのフードスタジオにみんなでお邪魔して、チーム飯島奈美が目の前で日本の家庭料理を作ってくれたのを食べました」と来日時のエピソードを初めて明かした。さらに「イ・ジウンさんは完食して『おばあちゃんに食べさせたい』って言ってました」と心温まるエピソードも明かしてくれた。

(2ページに続く)

関連記事

2022.07.08