「コラム」康熙奉(カン・ヒボン)のオンジェナ韓流Vol.223「ソン・ガンホの『ベイビー・ブローカー』」

是枝裕和監督がメガホンを取った『ベイビー・ブローカー』が日本で公開されている。韓国の実力派の俳優がこぞって出演しているが、その中でもやはりソン・ガンホの存在感が群を抜いている。
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どこか懐かしい

『ベイビー・ブローカー』は、赤ちゃんを育てられない人が頼るベイビー・ボックスが物語のスタートとなっている。
赤ちゃんを預けたのはIU(イ・ジウン)が演じる母親。そんな彼女が同行して、赤ちゃんを高く売りつけようとするブローカーたちが旅をしていく。
その中で、ソン・ガンホが演じるサンヒョンは、もともとクリーニング店の店主だ。しかし、裏で赤ちゃんのブローカーを取り仕切っている。
こう書くと、サンヒョンが冷酷な人間に見えるのだが、ソン・ガンホが演じると、途端にペーソスあふれる人間に思えてくる。実際、サンヒョンはただ金儲けだけを考える守銭奴ではなく、捨てられた赤ちゃんに同情しながら、少しでもいい親に引き取られていくように配慮もしている。
『ベイビー・ブローカー』という映画は、カン・ドンウォンやペ・ドゥナのような演技派が出演していて社会問題をからめた重厚な内容になっているが、その中でもソン・ガンホが見せる人間味あふれる中年男は、どこか憎めなくて、どこか懐かしい。こういう人物を演じさせたら、やはりソン・ガンホはピカイチの俳優だ。
彼は『ベイビー・ブローカー』の演技によって、今年のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を獲得した。
世界で注目されている韓国映画の中で、文句なしでナンバーワンの評価を得ているソン・ガンホ。彼の実績を大いに讃えるという意味で、カンヌで得た名誉は本当にタイムリーであった。

最良のキャラクター

『ベイビー・ブローカー』の序盤で、ソン・ガンホがクリーニングの仕事をしている場面が出てくる。生活がしみついた男が必死に仕事に励んでいる姿を見ていると、この映画のリアリティがひしひしと伝わってくる。
ソン・ガンホなら、どんなキャラクターを演じても、「本当にその人がそこで生きている」という雰囲気を如実に見せてくれる。
そして、赤ちゃんをあやしているときのソン・ガンホもとてもいい。演技も何もしていない赤ちゃんがごく自然に抱かれている。実際は撮影で大変だったかもしれないが、ソン・ガンホが独特の温かみでカメラの前に立つと、その場がドキュメンタリーのように臨場感があふれる。
実際、主役でありながら撮影のリーダー役も兼務しているソン・ガンホが作り出している世界は、映画の面白さに直結している。
今回の『ベイビー・ブローカー』ではIU(イ・ジウン)が本当に素晴らしい演技を披露していたが、彼女も名優ソン・ガンホと共演して得るものがとても多かったと思える。
そうした共演者への影響力も含めて、『ベイビー・ブローカー』はソン・ガンホが最良のキャラクターを演じた映画として長く記憶されるに違いない。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

2022.07.09