主体的に引き込む演技力
松坂桃李が扮したのは、外務省から内閣情報調査室に出向している杉原拓海だ。彼は職場で戸惑いの連続だった。
なぜならば、やらされていることが、政府に都合が悪い人物のスキャンダルをでっちあげることだったからだ。
その職務のために、杉原は常に葛藤を抱えている。自宅に戻ったときと外務省の元上司と酒を飲むときだけ杉原の表情はゆるむが、職場では希薄な人間関係の中で誰にも相談ができずに苦悩している。
俳優としては難しい演技の連続だ。セリフに頼れない「葛藤」は俳優自身が内面をえぐりださなければならないからだ。
その点で松坂桃李の演技は真に迫っていた。少なくとも、私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)は彼が見せる苦悩の表情に自然と感情移入していた。
この6月に放送が終わったテレビドラマ『パーフェクトワールド』で、松坂桃李は恋人の父に結婚を猛反対される主人公を演じていた。結婚の許しを得ようと何度も懇願する松坂桃李の演技は、見ているこちらも必死に応援したくなった。そのように、観客や視聴者を主体的に各場面に引き込む確かな演技力を松坂桃李は備えている。その力量が『新聞記者』でも存分に発揮された。
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この映画を待っていた!シム・ウンギョンと松坂桃李が主演の『新聞記者』