
ユニークでアイロニーな設定だからこそ、むしろリアリティーを持たせることが重要だと思いました。人気インフルエンサーであればあるほど、ただ偉そうにしたりはしないはずですから。そこでカン・ミンハクというキャラクターが、一日の中で時間ごとに協賛商品の宣伝をSNSに投稿しなければならず、出なくてもいいイベントに顔を出し、体型維持のために運動をし、周囲の人々が常にスマホで彼を撮っても平気なふりをして受け入れるなど、そんなルーティンがあるということを表現しました。
一方で、カン・ミンハクは動的でたくさん動くキャラクターですが、チュ・ヨンサンは主に座ってコーディングをし、一人で物思いにふけるので、静的に同じ場所にいるようなキャラクターです。その動的な人物と静的な人物が頻繁に出会い、ぶつかり合い、アプリ開発というミッションを通じて反発しながらも引かれ合う姿を描くうえで、撮影時の動線を決めることが非常に重要でした。 -
そこで私はいくつかの原則を立てました。カメラが止まっているときは登場人物を動かさなければならず、登場人物が止まっているときはカメラを動かさなければならない。すべてのシーンに適用できたわけではありませんが、主要人物のセリフが多く、それぞれを取り巻くキャラクターたちにも個性があるので、常に楽しく忙しい感じを出すように工夫しました。その結果、他のラブコメよりもドタバタコメディーや活劇に近いシーンが多くなりました。キャンパスの真ん中でノートパソコンが壊れたり、バスケットボール対決があったり、講義室や廊下で大人のおもちゃが飛んでいったり、デモ隊と用役(警備員)がぶつかり合ったり、仮面をつけた格闘シーンまで…!撮影だけでなく、衣装・メイク・美術などすべての部署が、その賑やかな動線を生み出すことに力を注ぎました。
Q 9.監督が考える物語のターニングポイントは?
エピソード5のエンディング。なぜかやたらと親しげに近づいてくるセレブのカン・ミンハクをずっと避けてきたチュ・ヨンサンが、逆に自分からミンハクに「一緒にグループワークをしよう」と声をかける場面が5話(副題「新学期総会」)に出てきます。この瞬間からヨンサンは気付くんです。「あ、私、ミンハクに引かれてるんだな」と。これがチュ・ヨンサンにとってのターニングポイントです。 +エピソード8のエンディング。今、 自分の価値は人気があること以外、何なのかと悩んでいたカン・ミンハクが、チュ・ヨンサンに段々と惹かれていた中で…チュ・ヨンサンに良くしてあげようとした結果、ヨンサンが偶然持っていたある物(大人のおもちゃ(汗))を講義室にいた人たち全員に見られてしまうという大失態を犯します。この出来事をきっかけに、ミンハクはヨンサンに対して漠然とした憧れ以上の申し訳なさと責任感を抱くようになるんです。これがカン・ミンハクにとってのターニングポイントです。
Q 10.撮影中、忘れられない出来事や思い入れのあるシーンは?
2月中旬、最初の屋外撮影の日に、なんと大雪が降ったんです。キャンパスの新学期初日の風景を撮る予定の日だったのに…普通なら撮影を中止して別日に延期するのが一般的ですよね。でも1時間ほどすごく悩んだ末、「これは気候変動が進むこの時代に、とてもリアルな風景ではないか」と思い至りました。どうせこれから3月、4月の撮影中も、こんなことが数え切れないほど起こるような気がしました。なので、もう雪があちこちに積もってて、溶けてもいたりする状況をドラマに収めました。そして、本格的に撮影を行う3月、4月…例年なら暖かいはずの季節なのに、1日の中で雨が降ったり雪が降ったり再び快晴になったりと、天気がめまぐるしく変わっていきました。もしかしたら、初めての屋外撮影の日の選択がこのドラマの基調となり、その後もそんな天気の変化に落ち込んだり、後ろめたさを感じたりすることなく、むしろドラマに取り入れました。演出者が脚本を兼ねていたからこそ、そうした柔軟な判断ができたのかもしれません。
また、これまで私の作品に出演してくださった俳優たちが友情出演して、現場を盛り上げてくれたりもしました。キム・ソンリョンさん、アン・ジェホンさんなどが一話ずつすてきにカメオ出演してくれたんです。その中に、特別出演ですが、複数エピソードに登場し、物語上重要な役割を果たすパン・ミナさんがいらっしゃいます。「Girl’s Day」というガールズグループのメインボーカルで、有名なアーティストでもあります。彼女が‘カン・ミンハクの元恋人’という、単なる機能的にもなり得るキャラクターを担うことで、ディテールを吹き込んでくれたような気がします。台本を送ると、自らセリフや状況に対するアイデアを考えて提案してくれるほどでした。
Q 11.本作品には、多様な恋愛模様や今の若者のカルチャーについてが描かれています。演出される中で最も気にしたポイントがありましたらご紹介いただきたい。
韓国の青春ドラマは、多くがソウルの名門大学を舞台に、健全な異性愛者の明るい恋愛ばかりを描きがちです。気候危機の時代なのに、いつも天気は快晴。経済的に厳しいはずなのに、デートはいつも華やか。でも、実際の韓国にはソウル以外の所に住む若者も多く、名門大学ではなく、来月の家賃を心配する人たちの方がずっと多いんです。LGBTQ+人口も多く、留学生、障がいをもつ方もいます。一方で、日本でもそうだと思いますが、多くの若者にとって、今は現実よりもSNS上の世界の方が大事で、そこでの評価を気にし、オンラインで出会うことも多いのに、そうした姿はあまりドラマに描かれません。
だからこそ、このドラマでは、実際に存在するのに従来のドラマでは描写が限られていた多様な背景を持つ若者たちが愉快に動き、けんかし、仲直りし、恋をする姿を描きたかったんです。 なので、舞台はソウルではなく京畿道、3月の春なのに雪や雨が頻繁に降る不安定な天気の中、彼らが忙しく動き回る姿を映しました。アプリで出会った男に失望するシーンも、異性愛に限らない若者たちの恋愛も込めました。
Q 12.本作品が視聴者へもっとも伝えたいメッセージについて教えてください。
個性の異なる若者たちが多く登場するこのドラマで、一番大切にしたポイントは、「偶然共にすることになった異なる世界の人々が、お互いの違いを受け入れながら愛するようになる。ただ、そのためには、自分の感性 を少し手放す必要がある」ということです。これはチュ・ヨンサンとカン・ミンハクのメインストーリーだけでなく、他のキャラクターたちのサブストーリーにも共通しています。 たとえば、工学科の学生会長で、権力に抵抗するのが好きなアクティビスト(活動家/運動家)のレズビアンであるカン・ドンウォンは、どこかお金持ちの一人娘のようでちゃっかりしており、権力には従順な方で、見た目にも気を使うモデル科の学生会長イム・ユリといざこざがありながらも恋に落ちます。また、弱弱しい豆腐系男子に憧れていた作家志望のナレは、とても濃い顔立ちのバイセクシュアルであるペン・ギルタンを好きになり、胸の内で悩みを抱えることになります。
このように、全く異なる存在同士が、かえって互いを意識し合い、そして恋に落ちるのです。しかし、これがファンタジーにならないためには、彼らは互いのために自分がもっているあるものと決別する必要があります。こうした現実的なハンディキャップやアイロニー、そしてロマン――そのすべてを表現しようと、頑張りました。
Q 13.本作は日韓同時配信がされます!これまでに日本に行ったことはありますか?もしくは、行ってみたい場所はありますか?
以前、私が監督した初の長編映画『銀河海放電線(英題:Milky Way Liberation Front』が東京国際映画祭に招待され、5日間東京のあちこちを巡りながらとても楽しい時間を過ごしました。その後も、由布院の旅館でゆっくり休んだこともあります。ただ、数年前に結婚してからは家族と一緒に日本を訪れたことがなく、今は子どももいるので、みんなでまた旅館にも泊まり、東京にも行き、行ったことのない場所にも足を運びたいです!
Q 14.日本の視聴者に注目してほしいポイントは?
韓国と日本の青春…意外とそんなに違わないと思うんです。以前、『花束みたいな恋をした』という日本映画を観て、とても共感しました。最近、韓国では90年代に木村拓哉さんのような俳優が活躍していた時代の日本ドラマが、若者の間で再び人気なんです。前者(=花束)はとてもリアルで、後者(=90年代ドラマ)は良き時代のポジティブさとロマンがある。日本の視聴者の皆さんにも、この「第4次恋愛革命」を通じて、現実感とポジティブさ/ロマンという二兎をどちらも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
Q 15.最後に日本の視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
たくさんの日本の創作物、特に映画、ドラマ、そして漫画は私という創作者の成長に大きな影響を与えてくれました。おそらく「第4次恋愛革命」にも、その力が反映されていると思います。日本の皆さんに、私たちのドラマを観ていただけるなんて、とてもドキドキします。ぜひ楽しんでください。
< 韓国ドラマ「第4次恋愛革命 ~出会いはエラー:恋はアップデート~」配信情報>
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