第28回 済州島の海女はいつもたくましい
稼げる仕事
地方に住む人々の生活ぶりをよく取り上げるKBSのドキュメンタリー番組『人間劇場』を見ていたら、済州島(チェジュド)の海女(ヘニョ)がたくさん出てきた。
みんな元気が良かった。
妙に懐かしい。母を思い出したからだ。
1918年に済州島の西帰浦(ソギポ)で生まれた母は、10代のときに海女をしていた。
当時のことをこう話してくれたことがあった。
「海に出るときは、かんぴょうの中をくり抜いて乾かしたものを浮輪に使うの。潜っている間に浮輪が波間を漂ってしまうけど、水から上がると浮輪をたぐり寄せ、それにつかまってしばらく休む。海に浮かんでいるときは、ホント、気持ちがよかったよ。そして、何度か潜ったあとに海辺に上がり、焚き火に当たってからだを乾かす。落ちついたら、また海に入っていく。これを何度か繰り返すけど、潮が満ちてきたら終わり。その日に獲ったサザエやアワビを近くの加工工場に売りに行くのね。重さを量ってもらうと、その場で現金をくれる。これがうれしかった」
その日の現金を受け取れる海女という仕事は、済州島の中で数少ない「稼げる仕事」だったようだ。
命の危険をともなう仕事でもあるのだが……。
(ページ2に続く)