『キム秘書はいったい、なぜ？』はパク・ソジュンの主演作として『梨泰院クラス』の前作に当たるドラマなのだが、『梨泰院クラス』の爆発的な人気に影響されて改めて日本で注目された。時間を経てもこれだけ支持されるのだから、面白いラブコメは不滅だ。

二つの「おとぼけ」

『キム秘書はいったい、なぜ？』はなんといっても、主役コンビが最高にいい。
「両パク」とも言えるパク・ソジュンとパク・ミニョンが典型的な美男美女でありながら、ラブコメに徹してとぼけた味を存分に出している。
しかも、パク・ソジュンは誰にもわかる「プラスのおとぼけ」を発揮していて、パク・ミニョンは通好みの「隠れたおとぼけ」をかもしだしている。そういう意味では、コインの表と裏のように表裏一体になっているのが『キム秘書はいったい、なぜ？』の洗練された面白さなのである。
キャラクターを見てみよう。

パク・ソジュンが演じるのは、ユミョン・グループ副会長のイ・ヨンジュンだ。凄い才能の持ち主でルックスも完璧。そして、性格は典型的なナルシストになっている。
ここまでヨンジュンは上にあがっていく一方で、常に彼は頂上にいる。そして、下界を見渡して自己愛にふけっているのだ。
そんな彼に一大事が起こった。長く仕えてくれた秘書が突然やめると言い出したのだ。
そう言われて初めて、ヨンジュンはその秘書が有能で魅力的であったことに気づく。そんな女性がパク・ミニョンの演じるキム秘書だ。

緊張と緩和

キム秘書が退社を決意したのは、父親の借金の返済が終わり、これからは自分の人生を思う存分に満喫したくなったからだ。
しかし、ヨンジュンは「キム秘書が自分のことを愛している」と錯覚してしまう。こういう展開から『キム秘書はいったい、なぜ？』はラブコメとしての本領が発揮されていく。
まず、ヨンジュンが頂上からズドンと落ちこぼれる。キム秘書の心境がまったくわからず、彼女から徹底的に振り回されてしまうのだ。こうなると「勘違いのオンパレード」である。ヨンジュンが真剣になればなるほど人情のわからない彼は人間的に凋落していく。そういう落差が本当に愉快だ。
そして、いよいよパク・ミニョンの出番だ。彼女が演じるキム秘書が冷静に自分の人生を普通に生きようとすればするほど、ヨンジュンが見当違いな行動で物語をひっかきまわしていく。こうなると、キム秘書は知らん顔してとぼけているだけでいい。勝手にヨンジュンがずっこけてくれるのだ。
かくして、ドラマは「勘違い」と「冷静沈着」が入り混じって、視聴者に緊張と緩和を交互にもたらしてくれる。このように笑える要素が随所にあって、『キム秘書はいったい、なぜ？』はラブコメの王道をひた走ってくれた。

文＝康　熙奉（カン・ヒボン）