母親の不在
パク・セロイの母親は、果たしてどうなったのだろうか。ドラマでまったく描かれなかったことが不思議だった。
なぜなら、韓国ドラマでは男性の主人公の母親を細かく設定するからだ。たとえ母親が亡くなっていたとしても、その思い出を延々と描くのが韓国ドラマの常道だ。
しかし、『梨泰院クラス』は違った。パク・セロイの人生には母親がまったく出てこないのである。
それゆえ想像するしかない。母親はパク・セロイが幼いときに父親と離婚したのか、あるいは、死別したのか。そのどちらかしかないだろう。
『梨泰院クラス』では全編にわたって、パク・セロイの父親に対する尊敬や愛情を描き続けた。それは見ていても、感動の場面の連続だった。
その印象が強いだけに、母親の存在が1つも感じられないのがかえって妙である。
パク・セロイの仲間たちにしても、チョ・イソを除けば母親はまったく出てこなかった。
そういう意味で『梨泰院クラス』は、通常の韓国ドラマと違って母親の姿が見えないドラマだったと言える。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)