『82 年生まれ、キム・ジヨン』は、もはや <事件>! ひとつの小説が韓国を揺るがす大事態に
『82 年生まれ、キム・ジヨン』は、韓国で 2016 年 10 月に初版 2000 部で刊行されました。キム・ジヨン氏(韓国 における 82 年生まれに最も多い名前)の誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児までの半生を克明に回顧してい
き、女性の人生に当たり前のようにひそむ困難や差別が淡々と描かれています。そして彼女はある日突然、自分の母
親や友人の人格が憑依したように振る舞い始め――。彼女を抑圧しつづけ、ついには精神を崩壊させた社会の構造は、 日本に生きる私たちも当事者性を感じる部分が多々盛り込まれています。 韓国ではその共感性の高さから、国内だけで 100 万部突破という異例の大ベストセラーとなりました。 2017 年 3 月 8 日の世界女性の日に、共に民主党のクム・テソプ議員がフェイスブックを通じて同小説 300 冊を購入 してプレゼントした事実が伝えられたのに続き、正義党のノ・フェチャン院内代表が文在寅大統領の就任記念に「82
年生まれ、キム・ジヨンを抱きしめてください」という言葉ととともにこの本をプレゼントしたことで本書のブーム に火が付き、国全体に及ぶ社会現象となりました。 K-POP アイドルなど影響力のある芸能人が度々話題にしたことでも注目を集め、ガールズユニット、Red Velvet
のアイリーンが本書を読んだと発言したところ、一部男性ファンが「アイリーンがフェミニスト宣言をした」として 一斉に反発、アイリーンの写真やグッズを破損する様子を動画投稿サイトに投稿するという事態も起きました。 アイリーンだけでなく、少女時代のスヨンや BTS の RM も『82 年生まれ、キム・ジヨン』に言及しています。2018 年 1 月、少女時代・スヨンは YouTube を介して放送されたリアリティ番組『90 年生まれチェ・スヨン』で「読んだ
後、何でもないと思っていたことが思い浮かんだ。女性という理由で受けてきた不平等なことが思い出され、急襲を 受けた気分だった」と、BTS・RM も NAVER の V ライブ生放送を通じて「示唆するところが格別で、印象深かった」 と本書にコメントを寄せました。
この反響からついに映画化も決定。主人公キム・ジヨンを演じるチョン・ユミとその夫役、チョン・デヒョンを演 じるコン・ユは『トガニ 幼き瞳の告発』『新感染ファイナル・エクスプレス』に続き、3 作目の共演となります。キ ム・ドヨン監督が手がけ、クランクインは 2019 年上半期に予定されています。 既に台湾でもベストセラーとなり、ベトナム、英国、イタリア、フランス、スペインなど 16 ゕ国で翻訳も決定して います。
韓国版原書『82 年生まれ、キム・ジヨン』書影
■著者からのメッセージ 日本の読者の皆さんへ この小説を書きはじめた 2015 年、韓国では多くの事件がありました。道徳観念のない女性たちが、MERS(中東呼吸器症候群)にかかっているのに隔離を拒否したという噂が流れました。もちろん事実ではありません。女性をばかにする暴力的な言葉を使ったお笑い芸人が番組を降板しました。母親を虫にたとえる「ママ虫」という造語が生まれました。韓国最大のポルノサイトにおいて、盗撮やレイプの共謀などの話題が公然とやりとりされていたことが明ら かになりました。
私は、誰も女性だからという理由で卑下や暴力の対象になってはならないと考えてきました。女性たちの人生が歪んだ形で陳列され、好き勝手に消費されていると感じました。女として生きること。それにともなう挫折、疲労、恐怖感。とても平凡でよくあることだけれど、本来は、それらを当然のことのように受け入れてしまってはいけないの です。そういう物語を書きたいと思い、そこから『82 年生まれ、キム・ジヨン』という小説は始まりました。
この小説はありがたいことに韓国で多くの読者に出会うことができました。そして、読者イベントやお手紙、ブックレビューを通して読者自身の話を聞かせてもらうこともできました。キム・ジヨン氏より年上の女性たちも、若い女性たちも、この小説はまるで自分の話のようだと言っています。共通する経験、そのときには気づかなかった感情、似ているようで違っているそれぞれの選択……おかげで女性たちの多様な物語が世の中に現れ、大きな意味を持って 受け入れられました。 女性たちをとりまく世界は変わりつつあります。Me too 運動はハーヴェイ・ワインスタインをはじめ、性犯罪を犯した政界・文化界の大物たちを追い出しました。アイルランドは国民投票によって、妊娠十二週までは制限なく妊娠中絶を許容しました。賃金公開制度を実施する国家が増えています。韓国の女性たちもまた、メディアによる性の商 品化を指弾し、家父長的な慣習に叛旗を翻し、自分が経験した性暴力を暴露して厳重な処罰を要求しています。 日本の読者の方々にとっても『82 年生まれ、キム・ジヨン』が、自分をとりまく社会の構造や慣習を振り返り、声 を上げるきっかけになってくれればと願っています。あなたの声を待っています。
2018 年秋
チョ・ナムジュ
(4ページに続く)