子役時代からのプロ意識
韓国は人脈がモノを言う世界である。韓国芸能界は特にそういう傾向が強く、子役時代から知名度が高い俳優は、大人になってからデビューする俳優に比べてずっと有利だ。
さらには、地上波だけでなくケーブルテレビ系のテレビ局がドラマ制作に乗り出し、放送される本数がかなり増えたことも大きい。市場の拡大は、名前を先に知られている俳優にとって追い風なのだ。
以上のように子役が大成できる環境が整備されてきたとはいえ、一番の理由は、俳優本人の素質と努力の賜物だということ。とにかく、成功した人たちは子供の頃からプロ意識が徹底していた。
たとえば、『トンイ』『太陽を抱く月』という大ヒット作に出演していたキム・ユジョンは子役時代のことをこう語っている。
「『トンイ』に出たときのことです。撮影前の練習で、友達役で共演した子役の人からセリフ合わせを頼まれました。気軽に応じたら、他のスタッフや子役たちがいる前でイ・ビョンフン監督から叱られました。悔しくて涙が出たんです。あとでスタッフの方が来て『すべてお前のためにやったことなんだよ』と話してくれました。実は私の演技力を高めるために行なったイ・ビョンフン監督なりの実践的な練習だったようです。でも、涙が止まらなかったですね」
このときはキム・ユジョンが10歳だった。この年齢で厳しい練習を課されるのだから、身につくプロ意識も半端ではない。
もちろん、すべての子役が成功するわけではない。確率から言ったら一握りかもしれない。しかし、現在のドラマや映画の世界を見れば、子役時代からしっかり演技していた俳優がとても目立つ。
特に、キム・ユジョンの今後に期待したい。『雲が描いた月明り』の舞踏シーンで見せた妖艶な演技は、後の大女優を彷彿させるものであった。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。両親が韓国・済州島出身の在日韓国人2世。韓国の歴史・文化・社会や日韓関係を描いた著作が多い。特に朝鮮王朝の歴史や人物を扱った著作はベストセラーになった。近著は『朝鮮王朝と現代韓国の悪女列伝』(双葉社)。