-「あの人に逢えるまで」は上映時間が28分ですが、インパクトが強く、余韻の残る作品という印象を受けました。この作品は監督が、風邪を引いて10日ほど家にこもっている間に、一気にシナリオを書き上げたそうですが、シナリオ制作過程のエピソードを教えてください。
ずっと短編映画を撮りたいなと思っていたんですが、香港映画祭から提案を受け、いざチャンスがきたら、何を撮ったらいいかなと悩みまして…。また、これまで撮ってきた作品は大作が多かったんですが、今回は制作費も少なかったので、意味のある短編をどう完成させようか、と考えているうちに、制作に入らなければいけなくなり、そんなときにインフルエンザにかかってしまったんです。体はだるいし、頭はぼーっとするし、コンディションは悪かったんですが、早くシナリオを書かなくてはいけなくて。
-締切があって、時間に追われていたということですか?
そういうことではなかったんですが、体調が悪いので、外出できないし、会社にも行けないし、ずっと家にいるしかなかったんです。だから、体はつらかったんですが、集中することができたんだと思います。
-本作は主人公のヨニが、離れ離れになってしまったミヌをひたすら待ち続ける物語ですが、実話ですか?
いえ、実話ではありません。でも、韓国の離散家族の歴史をみると、似たようなヒストリーを持った方がたくさんいらっしゃいます。私は常に南北分断、離散家族に対する思いが、心の片隅にあります。そういう話を取り扱ったテレビ番組や記事を目にすると、他人事とは思えず、関心を持って接してきました。だから、この作品も、そういう方々の話を参考にして、シナリオを書き上げました。
-これまでとは違い、女性が主人公の作品ですね。
「ブラザーフッド」を作った当時、朝鮮戦争関連のドキュメンタリーを見たんですが、それは戦争に行った夫を待つおばあさんの話でした。それをヒントに、夫婦ではなく、兄弟の話に変えたのが「ブラザーフッド」でした。でも、いつかは夫を信じて待つおばあさんの話を描きたいと思っていたので、それをこの短編に持ってきました。
-ヨニ役をムン・チェウォンさん、ミヌ役をコ・スさんが演じましたが、キャスティングの経緯を教えてください。
こういう短編で、主役級の俳優を起用する必要があるのかとも思ったんですが、撮影期間が5日間で、準備する時間も限られていたので、私がイメージするヨニ、ミヌを的確に表現できる俳優は誰かと考えました。特に、ヨニは70代と20代をちょうどいいバランスで演じなければいけないし、若いときの切ないロマンスが表現できて、一人の男性を生涯待ち続ける純粋なエレガントさも必要だったので、それができるのはムン・チェウォンだなと。それで、ムン・チェウォンを先にキャスティングした後、彼女に一番合うのは誰か、1つのフレームに2人を入れたときの時代感、愛し合っている者同士に見えるか、という2人が醸し出す雰囲気など、それらの条件を総合してみたときに、コ・スがムン・チェウォンの相手役として、一番合っているのではないかと思い、コ・スをキャスティングしました。
-特に、ムン・チェウォンさんは過去のヨニの姿をしながら、現在のヨニを演じるのに、抑えた演技で自然に見せ、その演技が好評だったようですが、監督からはどのような演技指導をされたんでしょうか。
観客は、最初20代のヨニを見ることになります。でもその人物は、実際は70代後半のヨニです。若い人が、なぜ70代の演技をしているのか、それを後で、観客に理解させなければいけないですよね。だから、この人物はおばあさんだったという事実を知ったとき、観客の共感を引き出す必要があったので、20代ですが、70代後半の演技をどれだけ観客に気付かれず、2役をいかに共有するかについての話はしました。
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