-監督から見たマダム・ベーさんの魅力は?
性格が僕の母とすごく似ているんです。母も釜山の人間で、言葉が強くて、タフな言い方をするし、すべての行動が早いです。決定を下すのも早いし、適当にやっているように見えて、実はきちんと仕事ができるし。自己中心的なところもあって、母から電話がかかってくると、母は自分の言いたいことだけを言って、すぐに切ってしまうので、そういう部分もマダム・ベーと似ているなと(笑)。マダム・ベーを見ると、素晴らしい人、すごい女性だなって。自分が手に入れたいもののために、最後まで戦い抜く強い女性で、先入観を取り除くと、リスペクトできる人だと思います。
-最後のシーンが終わり、マダム・ベーさんのその後がとても気になったんですが、いまもマダム・ベーさんとは連絡を取り合っていらっしゃるんですか?
もちろん。いま彼女はソウル近郊で、バーを経営しています。中国の家族も、北朝鮮の家族も選ぶことなく、一人独立して生活しています。その代わり約束を守って、バーの収益は中国の家族に送り、北朝鮮から来た家族にも仕送りをしています。
最後のシーンは、ちょうど彼女がどうすべきかを悩んでいた時期だったんですが、撮影はそこで終わりにしたんです。彼女の近況については、映画が上映されることになって、完成したものを見せに行ったときに知りました。
-この作品が日本で公開されますが、日本で公開されるということにどんな意味があると思っていらっしゃいますか?
以前も、日本にいる朝鮮人に会った経験があるんですけど、在日3世とか、北朝鮮でも韓国でもない選択をした家族、北朝鮮に家族がいる人、韓国に家族がいる人など、複雑な状況にある人に対して、すごく関心を持っていて、そんな方たちが暮らす日本での上映には大きな意味があると思っています。何よりも、国家とか偏見を捨てて見ていただき、人と人との出会いにおいては、壁はない、というメッセージが伝わればいいなと願っていますね。
-監督が今後撮りたい作品は?
いま考えているのは、過去を認識することは大事なんですが、私たちは現在を生きている人間なので、未来は、自分がどう捉えていくかによって変えられるということ。小さなことでも、アクションを起こすことが大事で、その小さな実践の積み重ねが大きな変化につながると思うので、そういうメッセージを込めたものを作りたいです。
ユン・ジェホ監督は、至って淡々と語っていたが、映像作家としての使命感なのか、その行動力のすごさには感服させられる。そして、緊迫感あふれる映像の中にも、マダム・ベーのタフさ、バイタリティー、明るさが際立ち、平凡な幸せを望みながら懸命に生きる彼女の生き様に、大きく心を揺さぶられる。
「事実は小説より奇なり」というが、まさにそれを示すような「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」は、人生の価値観や幸せのカタチについて、改めて考えるきっかけにもなるだろう。
取材:Korepo(KOREAREPORT INC)
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