第1回 30歳の初作品
男の30代にすべきこと
3月24日、ソウルで開かれた『テバク』の制作発表会に登場したチャン・グンソクは、自分自身についてこう語っていた。
「30歳になる俳優として最初の作品です。今までのものを捨てて、新しいものを身につけられる作品になるのではないか(と期待しています)」
30歳になったことを強く意識した発言だった。
日本からみると、「あれっ」という感じを持った人も多いだろう。チャン・グンソクは1987年8月4日生まれである。30歳になるまでに、まだ1年半ちかくもある。なぜ30代の最初の作品が『テバク』だと発言したのか。
この違和感は、日本と韓国の年齢の数え方の違いから生じるものだ。
韓国では今も数えで年齢を言うことはよく知られている。なにしろ、母親のお腹の中にいるときから生命が始まっていると考える。つまり、生まれる前からすでに年齢を数えるのだ。
そして、生まれたら1歳になり、年が改まるとまた1歳が加わる。年齢を完全な満で数える日本とは、計算方法に違いがある。
それだけに、チャン・グンソクが「すでに自分は30代に入っている」と考えるのは、韓国ではごく当たり前のことなのである。
男の30代……。
明らかに20代とは違う。20代があふれる若さで人生を謳歌するとすれば、30代は自分の進むべき道を明確に見つけて、社会の中で自分の立ち位置をしっかり作らなければならない。
ウカウカしていられないのは当然のことだが、何よりも世間の評価というものを確立していかなければならない年代なのである。
そのことを強く意識していたから、チャン・グンソクは制作発表会で「30歳になる俳優」と発言したのだろう。
そこに並々ならぬ決意を感じ取ることができる。(ページ2に続く)
ターニングポイントになる作品
この2年間、チャン・グンソクは大学院に通いながら、様々に持ち込まれるシナリオを見ていたはずだ。そのシナリオはラブコメが多かったのではないだろうか。これまでの彼の歩みを考えれば、それも当然のことだ。
しかし、もはやチャン・グンソク自身が、過去の成功体験にとらわれず、新しい自分を模索したいと考えていた。
俳優にかぎらずどんな分野でも、その成長を阻害するのが過去の成功体験であることをチャン・グンソクはよく知っていた。だからこそ、彼は『テバク』の制作発表会で「今までのものを捨てて」と言ったのだ。
なにも「捨てる」ことはないのかもしれない。立派な実績はそれとして残しておけばいい。しかし、チャン・グンソクはそれでは中途半端になると考えた。思い切って捨てなければ新しいものも見つけられないと実感したのだ。それほど、新しくチャレンジしてみたいという気持ちが強かったのである。
『テバク』の初放送を直前に控えて、彼は次のようなメッセージを発している。
「30歳になった僕の人生のターニングポイントになるような重要な作品とキャラクターなので、いつもより緊張するし、ときめく思いで初放送を待っています」
そう語ったあとで、チャン・グンソクは「新しいイメージを初公開することができてうれしい」とも付け加えている。
第1話の冒頭のシーンを見ると、確かにチャン・グンソクが言うような「新しいイメージ」の片鱗があった。ベテラン俳優のチョン・グァンリョルと対峙したチャン・グンソクは、力強い口調と引き締まった表情で「今までとまったく違う空気」を演出してみせた。果たして、多くの視聴者にはどのように受け取られたのか。
「新しいイメージ」には危険な香りがともなう。イメージ・チェンジに失敗した俳優の例は枚挙にいとまがない。
しかし、チャン・グンソクは後戻りしない。自分が望む30代になるために、過去を捨てて『テバク』でチャレンジする。
(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)
コラム提供:ロコレ
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