「個別インタビュー」チェ・ミンシク主演映画『不思議の国の数学者』パク・ドンフン監督 「叶わないと思っていた魔法も叶う」勇気と希望を抱かせる心温まる作品

チェ・ミンシクの相手役は、オーディションを通して選ばれた新人俳優のキム・ドンフィが演じた。ジウ役を見つけるまでは、何度もオーディションを重ねたそうだ。
「キム・ドンフィさんに出会うまで、かなり時間がかかり、オーディションの終盤でキム・ドンフィさんを見つけることができました。彼がオーディションを受けたとき、澄んだ真っ直ぐな気持ちが感じられました。ジウに近いものがあるなと思いました。オーディションをする際には、指定された台本を渡します。『不思議の国の数学者』の一部ではあるのですが、それを渡したところ、彼は修正して持ってきたんです。そういったケースはなかなかないので、その理由を聞いてみました。そしたら、彼なりに自分の論理を持って、とつとつとそれについて話しをしてくれました。その様子を見て、ジウと重なることがあるなと思いましたし、冒険家としての一面も持っているので、このキャラクターに合うと思ってキャスティングしました」。


ベテラン俳優と新人俳優の撮影現場も気になるところ。監督は「若い俳優さん達がたくさんいる現場だったので、ときどきではあったのですが、チェ・ミンシクさんの前で“ここに『オールド・ボーイ』がいる”って言うこともありました(笑)。共演者なので、同僚として見るべきなのですが、そんなことをたまに言っていました。ただ、それは人ごとではなくて、私もそんな気持ちでした。自分の目の前にイ・スンシンがいる、『オールド・ボーイ』がいると、不思議な感じがしました」とファン心を見せることもあった。続けて彼は「現場の雰囲気はとても良かったです。チェ・ミンシクさんとキム・ドンフィさん、それから一緒によく出てきたチョ・ユンソさんまで含めてよく3人で一緒にいることがあったのですが、3人でいたずらをしたり、冗談を言ったりしていました。そんな風に和やかな雰囲気の現場でした」と当時を振り返った。

劇中、ジウが数学者のハクソンに数学を教わる場所は、“B103”というアジト。薄暗いランプに照らされた空間では、数学を解いているというより、魔法でも使いそうな幻想的な雰囲気を醸し出している。アジト“B103”はこだわって作った空間だと話す。
「魔法という言葉を使ってくださったのですが、私は今までインタビューでどうして魔法という言葉を使わなかったのか、いま後悔しています(笑)。本当に正確に言い当ててくださったと思います。私はこれまでに魔法という言葉の代わりに、“小さな奇跡”という言葉を使っていました。“B103”は本当にこだわって作った空間でした。あの空間でさまざまな交流が行われていて、日常から逸脱しているような空間というそんな意味合いを持たせたかったので、照明だったり、美術だったり、プロダクションデザインにはかなりこだわって作りました。それと対照的なのが、普段の学校の教室です。その2つの空間を対比させるような形で工夫をしてみました。教室は非常に冷たい印象があって、天井も低い印象で立体感に欠けるようなところがある空間として位置づけたかったので、制服も白を中心とした制服にしました。かたや、“B103”の空間というのは、それとは対照的で立体感があって奥行きもあって、さまざまな色が使われていて、温もりを感じられる穏やかな空間という風に作りたいと思いました。そこでは、叶わないと思っていた魔法も叶うわけです。そしていろいろな可能性があちこちに散りばめられているように見せたいと思いました」。

“B103”では、数学の美しさを証明するために円周率から作られた“πソング”のピアノ演奏のシーンがあり、映画の見どころの一つでもある。
「最初に音楽監督であるイ・ジスさんと打ち合わせをしたときに、コンセプトを決めたのですが、弦楽器のオーケストラを使わずにやりましょうと言いました。あえて使わないという判断よりも、避けようという感じの意味で、弦楽器ではない他の楽器で自由な演奏がしたいとコンセプトを決めました。その当時、候補として聴いた曲というのが、Coldplayの曲やBTS(防弾少年団)JUNG KOOKさんの『Euphoria』、ダフト・パンクの曲、伝統的な作曲家の方が作った曲など、たくさんの曲を参考に聴きました。そして、“πソング”に関しては、もともとシナリオにありました。ただ、出来上がった本編を見ると、もともとのシナリオよりも比重が大きくなっています。シナリオに書かれていたのは、アジトで演奏するのではなく、音楽室に移動して演奏すると書かれていました。でも、“B103”というメインとなる空間をもっと輝かせたいと思い、“B103”で演奏することに決めました。あのシーンでは、もともと最初に計画していたのは、“πソング”を10秒から、長くても20秒くらい弾いて、その後ジウが不思議だなと思う表情を見せた後に、OSTが入ってきてそれで感動を高めるような流れになっていました。でも、もしその通りにやっていたら、一般的なシーンが出来上がっていたと思うのですが、私はそうしませんでした。なぜかというと、現場で曲をフルで聴いてみたのですが、これを短く聴かせて途中からOSTとか他の曲が入るのはないと思ったので、フルで演奏したものを使うことにしました。その結果、もともと予定していたものよりもシーン自体が長くなりました。出来上がっているシーンはもともと計画にはなく、そんな風に代えたシーンでした」。

最後に監督は「この作品を観てくださる方に、映画の中のセリフにもあるのですが、勇気ということを伝えたいと思います。何か諦めたくなるほど辛いことがあっても、少し時間をもって振り返ればきっと何か可能性が見つかると思います。“数学は発明でなく発見だ”という言葉のように、辛くても何か可能性を発見できる機会になってほしいと思います」とメッセージを伝えた。

『不思議の国の数学者』
4月28日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
【STORY】
学問と思想の自由を求めて脱北した天才数学者ハクソン。彼は自分の正体を隠したまま、上位1%の英才が集まる名門私立高校の夜間警備員として生きている。冷たく不愛想なため学生たちから避けられているハクソンはある日、数学が苦手なジウに数学を教えてほしいとせがまれる。正解だけをよしとする世の中でさまよっていたジウに問題を解く「過程」の大切さを教える中で、ハクソンは予期せぬ人生の転換点を迎えることとなる。

監督:パク・ドンフン 出演:チェ・ミンシク、キム・ドンフィ、パク・ビョンウン、パク・ヘジュン、チョ・ユンソ
2022年/韓国/117分/シネマスコープ/DCP5.1ch/日本語字幕:朴澤 蓉子/原題:이상한 나라의 수학자/英題:IN OUR PRIME  © 2022 showbox and JOYRABBIT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:クロックワークス klockworx-asia.com/fushigi

2023.04.22