午前8時になっても、霧は晴れるどころかさらに深くなっていった。空腹を覚えたので朝食でも食べようと思い、食堂を探した。そうしながら、ぶらぶらと港のまわりをのんびりと歩いてみた。
皿が空にならない
ちょうどドアが半開きの食堂があったので、その店に入りかけたが、急にピタリと足が止まった。アジュンマが食卓の前に座って熱心に化粧をしている姿が目に入ったからだ。鏡を見ながら、やたらと塗りたくっている。
朝の食堂で、仕込みよりも化粧に熱心というのはいかがなものか。雰囲気からして、化粧後に手を念入りに洗わないで食事を作るような気がした。
けれど、私の態勢は完全に食堂に入りかけている。アジュンマも私に気がついてニヤリと笑った。厚化粧でも隠せないシワがなんとも不気味だ。
私も一応は笑顔を見せたものの、何か急に用事を思い出した素振りを見せて、あわててその場を離れた。気が小さいから退散するときも落ち着きがない。
その食堂からなるべく遠ざかろうとして見つけたのが青山島食堂だった。船着場の奥の海岸沿いにあった。
一向に注文を取りに来ないので声をかけたら、「見たらわかります。1人前でしょ」と言い放った。メニューもなく、注文も勝手に決められてしまうらしい。
黙って待っていたら、意表をつかれた。たった1人なのに、食卓には20品ものおかずが次々と並ぶ。端から順に言うと、生ニンニクの漬物、海苔、海草のあえもの、小さい唐辛子、キムチ、カクテキ、塩辛三皿、もやし、小魚、干し大根の漬物、ニンニクの芽、さつまあげ、ハムの炒め物、黒豆、そして、メインは太刀魚の塩焼き。これにご飯とみそ汁が付いた。
これは1人が食べる朝食の量ではない。食べても食べても皿が空にならない。となりの席を見たら、3人連れなのに食卓に並んだ料理は私の場合と同じだった。1人でも3人でも量を加減しない。その結果、1人での食事なのに量で圧倒されてしま。
申し訳ないと思ったが、半分以上残してしまった。料金は1人前の5000ウォン(約500円)。ベルトを少しゆるめてから食堂を出た。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島2/ドラマ『海神』の舞台
コラム提供:ロコレ