韓国の徴兵制を長く取材してきて、兵役は本当に韓国でデリケートな社会問題だと思う。BTSが世界的にあれほどの大活躍をしているので率直に「彼らを兵役免除にすれば」と考える人も多いだろうが、そうできない事情がある。
画像=BTS公式SNS
世論の動向
BTSの兵役免除問題はこの数年間、芸能界だけでなく政界にも影響が及ぶほどの関心事だった。
国会議員の有志がBTSの兵役免除を法律的に正当化させるための動きをしていたが、結局は世論の大きな支持を得られなかった。
その背景にあるのが、韓国の世論には明確に「BTSの兵役免除」に反対する人たちがいる、ということだ。特に強い主張をするのは、「兵役で辛い思いをした経験者」と「現在も息子を兵役に送り出している母親」である。
このことは理解できる。母親にしてみれば、「息子が軍隊で大変な思いをしているのになぜ芸能人は……」と思ってしまうし、軍隊がトラウマになっている兵役経験者は「誰もが公平に兵役の義務を負うべきだ」と不満を述べる。
確かに、韓国の兵役には免除制度がある。スポーツ界なら「オリンピックのメダリスト」「アジア大会の金メダリスト」であり、芸術分野では「権威ある国際コンクールの2位以内、国内の重要な大会の優勝者」といった基準を満たして兵役免除になる人たちがいる。
しかし、大衆文化には国民が揃って賛成できる明確な選抜基準がない。それによって、大衆文化はずっと「兵役免除」の対象にならなかった。
2025年の活動再開は可能
BTSが「オリンピックのメダリスト」以上の実績を挙げていることは誰もが知っているが、「明確な選抜基準」の壁を超えられないところが大衆文化の限界だ。
そこで「特例」を作ってBTSを適用させよう、ということになってきたのだが、前述した人たちの反対が予測できる状況では無理ができない。「強行突破」は国民の間で分断を招きかねないのだ。それは、BTSにとっても不本意なことだろう。
今回、彼らは万博誘致に貢献するコンサートを開いた後、グループ活動をいったん中断して、最年長のJINを最初にして順次兵役に入っていく情勢である。
韓国の人たちが十分に理解を示せるステップだと思う。仮に「兵役の特例」の恩恵を受ければ、かならず「公平性」の面で批判を受けただろう。それはBTSの経歴にとって「負の遺産」になったかもしれない。
最後まで国家事業に貢献して堂々と兵役に入っていく、という道筋は、彼らの評価をさらに高めることにつながると思える。
所属事務所は「2025年に再びグループとして活動再開」を目標にしているが、それは十分に可能である。
兵役を経た彼らが再びどんな姿を見せてくれるのか。それを想像するのもまた、とてつもない楽しみだ。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)