「コラム」東方神起ユンホの快挙が「芸能界の兵役問題」を改善させる

20160516e3450陸軍の軍楽隊はこんなパフォーマンスも見せる(写真=韓国陸軍公式サイトより)

 

陸軍の軍楽隊に所属するユンホ。彼の今回の特級戦士選抜は、芸能界にとってもどんな意味を持つのだろうか。過去の芸能界の兵役問題を振り返りながら、ユンホがもたらした成果の影響について考えてみよう。

 

兵役免除の実態

1990年代までの芸能界では、兵役が免除になったスターはかなり多かった。当時は、それが許される世相でもあったのだ。

状況が変わるきっかけとなったのは、1997年12月の大統領選挙である。有力な大統領候補だった李会昌(イ・フェチャン)氏の2人の息子が体重不足を理由に兵役を免除されていたことが発覚し、大問題となった。

確かに、当時は体重不足によって兵役が免除される規定があったが、息子が2人とも軍隊に行っていないという事実は国民から不信感を抱かれた。結局、この問題によって李会昌氏は国民の信頼を失い、最有力であった大統領選挙でも金大中(キム・デジュン)氏に僅差で敗れた。

これをきっかけにメディアが有力者の息子たちの兵役履歴を調べると、不正が次々と明るみになった。財閥企業の役員、国会議員、高位公職者の当人と息子があまりに兵役を免除されている確率が高かったのである。

さらには、軍の幹部の息子たちも、兵役をかなり免除されていた。一般人の兵役免除率は5%前後なのに、特権階級の息子の場合は30%以上にはねあがった。どう考えても、作為的に兵役が免除されているのが明らかだった。

こうした事実がわかってから、国民が兵役免除に向ける目が厳しくなった。特に、芸能界のスターたちは、目立つ存在であるがゆえに、兵役履行の有無について関心を向けられた。

その最中で批判を浴びたのが、アメリカの永住権を取得して兵役を逃れるスターがいたことだ。韓国の兵役法によると、外国の永住権を持った人は兵役免除の対象になる。

それを悪用したということで、批判をもろに浴びて芸能界を去らざるをえないスターもいた。

 

芸能兵が誕生

2004年9月にはショッキングな事件が明るみになった。一部のプロ野球選手たちの腎臓疾患を装った兵役忌避事件が社会問題となり、その捜査過程で芸能界でも摘発された人が続出した。

特に、ソン・スンホン、チャン・ヒョク、ハン・ジェソクといった著名な俳優が含まれていて、彼らは出演予定のドラマをキャンセルされるという状況になった。

「模範にならなければいけない芸能界のスターが意図的に兵役をのがれているのは絶対に許せない」

世論は厳しくなり、以後は芸能界のスターにとっての兵役問題は、生き残れるかどうかの「踏み絵」のようなものとなった。

ただし、韓流ブームがアジアを席巻する中で、芸能界のスターには特例を与えてもいいのではないか、という風潮も生まれた。

スポーツの分野では、オリンピックの銅メダル以上、アジア大会の金メダル、サッカー・ワールドカップのベスト4以上、といった成績をあげると、選手は兵役を免除される特典があった。

芸能界のスターも作品を通して大いに国威発揚を果たしているので、スポーツ選手と同様に兵役免除の特典を与えてはどうか、という議論も政府内で起こっていた。しかし、最終的に実現しなかった。芸能界のスターは個人的に莫大な収入を得ていることがネックになってしまったのだ。

兵役免除の特典がスターに適用されなかった代わり、「スターは芸能兵になれる」という代替制度が生まれた。これは、国防広報院の広報支援隊員になって軍の活動を内外にアピールする、というもので、軍務の中身が「広報イベントでのパフォーマンス」になったのである。イ・ジュンギを初めとして多くのスターが、この広報支援隊員を務めて兵役を終えている。

 

入隊延期の根拠

2013年にピ(RAIN)が軍の規律に違反してキム・テヒと密会を重ねたり、他の広報支援隊員が公演後に飲酒をしたり風俗店に行ったりしたことが発覚し、国民の批判を浴びた。

結局、広報支援隊員の制度は2013年に廃止になってしまった。

韓国では、芸能人に対して個人以上の社会的責任を強いる傾向がある。

「公人は厳格な倫理観を持たなければいけない」

芸能人に対しても、そういう目を向けるのだ。

スターの側もそういう立場を自覚し、慈善活動に熱心に取り組み、厳しい倫理観を自らに課している。

兵役問題に関しても、「韓国男子の義務である以上、かならず立派に遂行しなければいけない」と自覚している。

ただし、入隊する時期が問題だ。人気が高いうちは持ち込まれるオファーも多く、入隊を延期せざるをえないのが実情である。

とはいえ、韓国の兵役法によると、入隊を延期できる正当な理由はほぼ学業だけ。つまり、スターの入隊を延期できる根拠は特にないのだ。一応、兵役を司る兵務庁は、スターの活動に配慮して入隊延期申請を受け付けているのだが……。

それでも、保守的な人は「なぜ芸能界のスターたちは兵役を延期して30歳近くになって行くのか」という批判を突きつけてくる。

人気稼業である以上、スターは国民のどんな声も意識せざるをえない。入隊が遅れればそれだけ軍務を他の人以上に立派にやり遂げなくてはならない、という強い使命感を持ってスターは入隊していくのである。

 

大韓民国の息子

「兵役はスターの墓場」

かつてはこんな言葉が生きていた。兵役による2年近い空白は人気凋落の原因になる、というわけだ。

確かに、以前の芸能界では兵役のブランクによって人気を落としたスターが何人もいた。しかし、今は時代が違う。

むしろ、兵役をやり遂げることで、人間的な評価を高めて人気を維持できるケースが多くなっている。つまり、兵役は「墓場」どころか「絶頂期」につながる過程になる、とも言われてきた。

訓練があまりに厳しいことから「男の中の男」と呼ばれる海兵隊に自ら志願したヒョンビンが、立派に軍務を終えて評価を高めたことは特筆すべきことだ。

そのヒョンビンを上回る評価を受けたと思われるのが、東方神起のユンホである。

それを一番実感したのは、ソウル新聞が「大韓民国の息子」という大見出しを掲げたときだ。

この表現のニュアンスというのは、日本ではちょっとわからないかもしれない。「国民の妹」「国民の娘」「国民の~」という言い方は韓国でよく使われるものだが、「大韓民国の息子」という大見出しには、誇らしくて頼もしい感情がたっぷり込められている。

新聞がこういう大見出しを掲げるということは、国民の声を代弁していると言っていい。ユンホの特級戦士選抜というニュースは、それほど国民にアピールしたのである

 

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芸能界の立場を高めた

過去に芸能人で特級戦士に選ばれた人は何人もいるが、ユンホの場合は別格な扱いだった。なにしろ、陸軍の公式サイトには、第26師団のシン・イノ師団長とユンホのツーショット写真が華々しく掲載された。

ユンホが受けた賞状を師団長が一緒に持ってくれている写真には驚いた。

師団長は少将である。一方のユンホは一等兵。階級制度が厳しい軍隊で、少将と一等兵が対等に並んで写っている写真というのも、きわめて異例である。それほどユンホの特級戦士選抜は陸軍も大々的に報道したかったのである。

これは何を意味するのか。

「国民から軍の活動を好意的に見てもらうためには、いかに芸能界のスターの存在が欠かせないか」を軍幹部が如実に理解していることの表れであろう。それが、公式サイトへのツーショット写真掲載につながった。

とりわけ、ユンホの存在感が大きい。東方神起のメンバーとして世界中で知られる大スターが、兵役で軍隊に入っても超一流の実力を示す……このことは、芸能界の立場を大いに高める快挙であった。

その影響は小さくない。スポーツ選手のような兵役免除の特典がなく、芸能兵も廃止されてしまった今、それに代わる恩恵をスターには与えてもいいのではないか。そういう議論が起こっても不思議ではない。そういう機運を醸成したという観点でも、今回のユンホの特級戦士選抜は重要な意味を持つ。

彼の残りの軍務は11カ月。さらにどんな活躍をして「大韓民国の息子」という名声を高めていくのだろうか。

 

文=康 熙奉(カン ヒボン)

コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.05.16