【コラム】“架空アイドル”に本気で沼る時代…韓国コンテンツの新戦略

“作品を見る”だけでは、もう終わらない。

いま韓国コンテンツ業界では、ドラマや映画の世界観を“現実”へ拡張し、視聴者自身を作品の中へ引き込む“体験型コンテンツ”が新たなトレンドとして広がっている。

Netflixシリーズ「キリゴ」の視聴者たちは、作品を見終えたあと、自然とアプリストアを開く。

劇中に登場した“願いをかなえるアプリ”「キリゴ」を実際にダウンロードし、フィクションと現実の境界が曖昧になる感覚そのものを楽しんでいるからだ。

一方、映画「ワイルド・シング」も公開前から異例の戦略で話題を集めた。

劇中に登場する男女混成ダンスグループ“トライアングル”の音源やミュージックビデオを先行公開し、まるで“実在するアイドルグループ”のようなプロモーションを展開。映画公開前からファン層形成に成功した。

つまり、“作品を見せる”前に、先に人々の日常へ入り込んだのである。

いま韓国コンテンツは、単なる“視聴型”から、“参加型・体験型”へと急速に進化している。

 

■ドラマのアプリを“本当にDL”する時代

「キリゴ」は、願いをかなえるアプリ“キリゴ”の呪いによって突然の死を予告された高校生たちが、その呪いから逃れようと奮闘する物語だ。

「I.O.I」「gugudan」出身のカン・ミナ、子役出身のイ・ヒョジェをはじめ、チョン・ソヨン、ペク・ソノ、ヒョン・ウソクら新人俳優たちが出演し、新鮮なエネルギーを見せた。

特に、“願いをかなえるアプリ”という設定は、ファンタジーでありながら、スマートフォン時代の現実感とも絶妙に結び付いていた。

その結果、「キリゴ」は公開2週目でNetflixグローバルTOP10非英語TVショー部門1位を記録。750万視聴数を突破し、24か国で1位、64か国でTOP10入りを果たした。

さらに興味深いのは、劇中に登場したアプリ「キリゴ」が、実際にダウンロード可能な形で公開されたことだ。

アプリには劇中と同じ音楽や機能が搭載され、開発者名も作中設定と同じ“Kwonsiwon(クォン・シウォン)”で表示されるなど、細部まで世界観が徹底された。

アプリ説明欄には、

「“キリゴ”は、あなたの切実な瞬間を記録し、大切に残す感性型願い記録アプリです」

と記されており、願いの記録やギャラリー保存機能なども実装されている。

現在、ダウンロード数は100万回を突破。

レビュー欄には、

「削除してもアプリが消えない」
「本当に願いがかなった」
「怖すぎる」

といった、“作品世界へ本気で没入した”コメントまで並び始めている。

まさに、ドラマの世界観が現実へ侵食した瞬間だ。

■“架空アイドル”を本気で推す時代

「ワイルド・シング」もまた、“現実侵食型コンテンツ”として注目を集めた作品だ。

映画は、かつて音楽業界を席巻したものの、ある事件によって一夜で解散した3人組男女混成ダンスグループ“トライアングル”が、20年ぶりの再起に挑む姿を描くコメディー作品。

主演はカン・ドンウォン、オム・テグ、パク・ジヒョン。

しかし制作陣は、従来の“映画情報を公開して宣伝する”方式を選ばなかった。

まず先に、“トライアングル”を現実に“存在させた”のだ。

音源公開、ミュージックビデオ配信、SNS運営、さらにはNamuwikiページ開設まで行い、“本当に90年代後半〜2000年代初頭に活動していたグループ”のような空気感を作り上げた。

代表曲『Love is』は、Melon、genie、Spotify、Apple Musicなど主要プラットフォームでも正式配信。

しかも、TWICEの『KNOCK KNOCK』『YES or YES』などを手掛けたシム・ウンジ作曲家が参加し、完成度まで本格的だった。

結果として、公開前から“トライアングル推し”のファン層まで形成され、“架空アイドルを本気で応援する”現象が生まれた。

制作陣は、
「観客が映画を見る前から“トライアングル”と感情的な絆を築いてほしかった」
と説明している。

つまり、“映画を見る”ことより先に、“存在を信じたくなる感情”そのものを作り出したのである。

■“偽物”だと分かっていても、人は没入したくなる

「キリゴ」と「ワイルド・シング」に共通しているのは、“世界観を現実へ持ち込んだ”ことにある。

「キリゴ」は視聴者にアプリをダウンロードさせ、「ワイルド・シング」は観客に架空アイドルを“推させた”。

そこでは、コンテンツはもはや“画面の中の物語”ではない。

スマートフォンの中に存在し、SNSに現れ、音楽として耳に流れ込み、日常へ入り込んでくる。

そして、その“現実との境界の曖昧さ”こそが、現代コンテンツ最大の魅力になりつつある。

結局、人々が熱狂する理由はシンプルだ。

“偽物だと分かっていても、喜んで没入したい”

その感覚そのものが、いま最も強いエンターテインメントになっている。

 

WOW!Korea提供

2026.05.17