「コラム」連載 康熙奉(カン・ヒボン)のオンジェナ韓流Vol.177「チャン・グンソクに期待すること」

ドラマの迫真性

実際、彼はそれまでのキャリアで培った演技力をすべて発揮するくらいの熱意をもって主人公テギルを演じきった。それは、臨場感があふれる各場面が如実に物語っていた。
しかし、残念なシーンがあったことも事実である。
たとえば、テギルが師匠のもとで山中に入って長いあいだ厳しい修業に明け暮れる場面だ。物語のうえでは、テギルが大きく成長していく重要な場面である。
それなのに、チャン・グンソクが演じたテギルは髭もまったく生やさず顔もきれいなままなのである。
設定としては、ありえなかった。画面上では、山中で厳しい修業をしていたとは、とうてい思えなかった。

何よりも、髭も生やさないというのはどういうことなのか。まさか、厳しい修業の最中に毎日髭を剃っていたわけでもあるまいし……。
そういう「ありえない場面」が出てしまうことで、『テバク~運命の瞬間(とき)~』というドラマの迫真性が弱まってしまったことは否めなかった。
チャン・グンソク自身が、というより、制作陣が「大スターのチャン・グンソク」に気をつかったのかもしれない。しかし、悲壮な覚悟でドラマに取り組んでいた彼にとってはマイナスの気遣いだったのでは……。
兵役という社会的な経験を経て芸能界に復帰したチャン・グンソク。今後の彼が俳優を続けていくのであれば、ぜひとも「悲壮な覚悟」が画面の隅々まで反映されるようなドラマに出てほしい。

文=康熙奉(カン・ヒボン)

2021.08.21