6 月 12 日(土)より、渋谷 ユーロスペースにて、「作家主義 ホン・サンス」開催

「カンウォンドのチカラ」「オー!スジョン」初期の名作を連続上映

映画という芸術の最先端を走り続ける名匠ホン・サンス監督の初期名作「カンウォンドのチカラ」(98)と「オー!スジョン」(00)が連続上映される。
60年代にジャン=リュック・ゴダールが、80年代にヴィム・ヴェンダースが、90年代にウォン・カーウァイがいたように、00年代以降の映画はホン・サンスによって更新され続けている。96年のデビュー作「豚が井戸に落ちた日」以来、韓国のみならず、有名映画祭を中心に世界中を驚かせてきた彼は、「反復」と「差異」に特徴付けられる独自の映画話法を使ってストーリーテリングの呪縛から軽やかに逃れ、人間という哀しくも愛おしい生き物の素顔を、乾いたユーモアを交えて描き続けてきた。その作品は、年を追うごとに深みを増し、昨年の「逃げた女」に続き、最新作「Introduction(原題)」も、ベルリン国際映画祭で受賞(銀熊賞/最優秀脚本賞)を選ばれた。

そんなホン・サンス監督の初期名作である「カンウォンドのチカラ」(98)と「オー!スジョン」(00)は、韓国映画の新しい時代を創造した革新的な作品であると同時に、「ホン・サンスがいつホン・サンスとなったのか」が刻印された貴重な2本だ。

公開当時にホン・サンス監督が「私たち自身をもう一度見つめるような映画が作りたかった。同時にそれが“写実的な”映画になってしまうのは嫌だった」と語った「カンウォンドのチカラ」は、友人と共に観光地として知られる江原道(カンウォンド)を訪れた女性の大学生の行動を見守る前半と、同じ場所を同じ時期に訪れていた男性の大学教師が登場する後半とに分かれている。映画が進んでいくうちに、2人が別れて間もない恋人同士であったことが次第に明らかになるこの映画からは、同じ時間を過ごしながらも決定的に違う風景を見ることしかできない人間という存在の虚しさが伝わる。

一方、出会いから初めての一夜までの過程を、男女それぞれの視点から描く「オー!スジョン」では、冬のソウルをとらえた美しいモノクロ映像の中で、それぞれの欲望によって微妙に歪められた記憶の物語が綴られていく。この作品の韓国公開から5年後に惜しくも世を去った女優イ・ウンジュが、前半と後半でまったく違って見える女性スジョンを見事に演じ分けている。
世界を魅了し続ける映画作家ホン・サンスの25年におよぶ旅の始まりを目撃することは、彼の芸術性を再発見する絶好の機会となるだろう。

「カンウォンドのチカラ」
友人たちと共に、自然豊かな江原道(カンウォンド)へと遊びにきた大学生イ・ジスク(オ・ユノン)。親切な警察官と知り合った彼女は、しばらくした後、再び彼に会うため、江原道を訪ねる。一方、教え子であるジスクと別れたばかりの大学講師チョ・サングォン(ペク・チョンハク)も、後輩に誘われて江原道へとやってくる。ホン・サンス監督の長篇第2作で、そのスタイルの原点。同じ時に同じ場所を訪れていながらまったく出会うことのない元恋人同士が経験する、似ているようで微妙に違う出来事と心の変化を2部形式でディテール豊かに見せる。主演は共に本作で映画デビューを果たした「秘蜜」(04)のオ・ユノンと「私の頭の中の消しゴム」(04)のペク・チョンハク。

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2021.04.12