「個別インタビュー」ついにグラミー授賞式へ進撃!"BTSとARMYが「世界一」である理由"『BTSとARMY』著者、社会学者イ・ジヘン氏へインタビュー

――世界中のARMYが連帯する背景には、マイノリティーやジェンダーなど、現代社会が抱える問題も関係しているのでしょうか。

ARMYが世界で増えている理由はいろいろあると思いますが、おっしゃる通り現代社会の問題も要因のひとつだと思います。21世紀に入ってネットが発展し、人や物が国家間を移動するスピードも速くなりました。世界が多様性を受け入れなければならない時代が来たと同時に、アイデンティティが異なる人同士の葛藤も激しくなっています。そんななか、RMが、国連でのスピーチや、インタビューなどでいつも語っているのは、「あなたが誰なのか、どこから来たのか、肌の色や ジェンダー意識は関係ない」ということ。BTS自身、東アジアの片隅にある国の小さな芸能事務所から生まれたグループです。彼らの歩みにARMYは自分たちの思いを投影している。BTSはさまざまな多様性をもつ人たちをひとつにつなぐ役割をしているのではないでしょうか。

――そんなARMYとBTSとの関係が、K-POP、そして世界の音楽業界に与えた影響とは。

近代以降、文明の歴史は西洋中心でした。音楽の歴史も同様です。欧米で流行ったものが世界のトレンドになる。でも、BTSはそれをひっくり返しました。Billboardの成績など、数字にも表れていますよね。これは韓国だけでなく、東アジアから起きた地殻変動です。大きな変化がBTSで可視化された。それを可能にしたのがARMYです。

――「BTSとARMY」は韓国語と英語でも出版されていますが、読者からはどのような感想が寄せられましたか。
韓国のファンも他の国のファンも、同じ部分に共感したと言います。「『わたしの人生で一番必要だった時にBTSと出会った』という言葉に涙が出た」という人がたくさんいました。告白すると、わたしも本を書きながら何度も泣きました。「自分の個人的な経験や考えがBTSと重なる」という感想が多かったです。

――いよいよグラミー賞の結果が、3月15日(日本時間)に発表されます。

音楽的な成功はBillboardやグラミーなど欧米のチャートや賞だけでははかれません。受賞する、しないにかかわらず、グラミー賞以後は、また別の基準で成果が語られるようになればいい。わたしたちがそれぞれ考える基準でBTSや音楽の価値について話すことができるようになればと望んでいます。

 

 

 

書籍:『BTSとARMY わたしたちは連帯する』2月17日に刊行。

同書では、自身もBTSのファンを意味する「ARMY」だというイ・ジヘンがBTSの快挙とARMYの連帯を社会学の視点から分析。日本語版には古家正亨へのインタビュー「彼らは世界を一つにする象徴だから」が掲載される。

著者:イ・ジヘン
梨花女子大学で理学士、米国カリフォルニア芸術大学で芸術学修士(映画演出)、中央大学先端映像大学院で映画学博士(映画理論)の学位を取得。 檀国大学や延世大学などの講師を経て、現在は中央大学で映画についての講義を担当。映像物等級委員会の委員も務める。博士学位論文のテーマは「破局と映画:21世紀の映画における破局の感情構造」(2015)。 ポストヒューマン、映像文化と現代性の関係、ニューメディア時代の大衆文化研究に関心を持っている。

 

 

 

 

 

 

訳者:桑畑 優香(くわはた・ゆか)
早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。
「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画のレビューやK-POPアーティストへのインタビューを中心に『韓国語学習ジャーナルhana』『韓流旋風』『現代ビジネス』『デイリー新潮』『AERA』『Yahoo! ニュース 個人』などに寄稿・翻訳。訳書に『韓国映画俳優辞典』(ダイヤモンド社・共訳)、『花ばぁば』(ころから)、『韓国映画100選』(クオン)、『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』(柏書房)、『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)などがある。

 

 

 

 

 

2021.03.14