朝鮮王朝を彩った27人の王の中で、イ・サンこと正祖(チョンジョ)ほど学問に精通した王は他にいなかった。「学問の道に進んでいれば、大学者になっていたことだろう」。そう評価されるほど、正祖の文才と博識は際立っていた。
老論派の黒幕
正祖は元来が頭脳明晰ではあったが、それ以上に大きかったのは夜通し読書にいそしんだことだ。といっても、ただの本好きではない。もっと切実に、夜に本を読まなければならない事情があった。
それは、寝ている間に暗殺されることを防ぐためだった。
常に命の危険にさらされていた彼は、寝る時間を少なくして自らの身を守ろうとした。読書は起きているための手段でもあったのだ。
そんな正祖は1776年に即位してから善政をずっと行なったが、さらなる大改革を宣言したのが1800年5月のことだった。
大改革の目玉は人事の刷新だった。当時は老論派が主流派閥だったが、正祖は「今後は新しい人材を積極的に登用する」と宣言した。それは、老論派の没落を意味していた。
それだけに、老論派は危機感を強めた。
それから1カ月後、正祖は突然高熱で倒れた。
病状は深刻になるばかりだった。そこに登場したのが貞純(チョンスン)王后だ。正祖の祖父にあたる英祖(ヨンジョ)の二番目の正室で、老論派の黒幕だった。
彼女は正祖の病床を取り囲んでいる高官たちに命令した。
「私が直接看病するから、みなの者は下がっていなさい」
高官たちは仕方なく部屋の外に下がった。
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