疑念がふくらんだ
孝懿王后は病弱だったので、子供を産める可能性が低かった。
洪国栄は自分の妹を正祖の側室として宮中に送り込んだ。それが元嬪(ウォンビン)・洪(ホン)氏である。
「なんとしても殿下の子供を産め」
洪国栄は妹に厳命していたが、なんでも自分の思いどおりになるわけではない。不幸なことに、元嬪・洪氏は側室になって1年ほどで子供を産まないまま亡くなってしまった。実の妹があまりに突然に世を去り、洪国栄は自責の念にかられた。
「俺が妹を宮中に送り込んだばかりに……」
哀れな妹を思って、洪国栄は号泣した。
やがて涙が涸(か)れてくると、彼の心に疑念が生まれた。
「なぜ、あんなに元気だった妹が突然死んだのか。もしや……」
疑念はどんどんふくらみ、やがて一人の女性に行き当たった。
「中殿(孝懿王后)の指図によって毒殺されたのでは……」
一度そう思うと、その疑念は強迫観念となって洪国栄の心を苦しめた。次第に洪国栄は逆恨みをして、孝懿王后が妹を殺害した黒幕だと決めつけるようになった。
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