説得力がある主役
厳密に言えば、シム・ウンギョンの日本語が「韓国人が一生懸命に勉強して覚えた日本語」であったことは事実だが、それ以上に特筆すべきは彼女の演技力だった。
吉岡エリカが真相に近づいていく過程でシム・ウンギョンの演技力が際立ってくる。
特に圧巻だったのが、父親の遺体と対面する場面だった。
このシーンにセリフはない。
シム・ウンギョンも、感情をありのままにさらけ出せばいい。その結果が、父親の死を受け入れられずにもらす嗚咽(おえつ)につながった。
その迫真の演技に、見ていて涙腺がゆるんだ。
まさに、女優たるシム・ウンギョンの真骨頂であった。
映画の中で吉岡エリカは、記者であった父親の「誰よりも自分を信じ疑え」という信条を胸に刻む。
その気持ちは、シム・ウンギョンも同じだったのではないか。彼女は演技を続けながら「自分を信じる気持ちと疑う気持ち」を併せ持って、客観性を失わずに役の中に自分自身を投影していった。
それゆえに、説得力がある「吉岡エリカ」が存在したのである。
意表をつくキャスティングをしたプロデューサーと、しっかり応えたシム・ウンギョン……。劇場で『新聞記者』を見ている2時間の間、制作者と演技者の情熱を感じて時間が経つのを忘れた。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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