「コラム」韓国のドラマはなぜ時代劇がとても多いのか

時代劇が数多く作られる理由は、端的にいえば「視聴率が取れる」からである。毎年のように、爆発的に大ヒットする傑作時代劇が生まれていて、このジャンルは視聴者から根強い支持を受けている。必然的に、ドラマの中でも時代劇の割合が高くなるのだ。

20160625-テバク写真=韓国SBS公式サイトより

『テバク』は典型的なファクション時代劇!

チャン・グンソク主演の『テバク』の放送が韓国では終わったばかりである。

このドラマは史実をベースにしながら、大胆な解釈で朝鮮王朝時代の18世紀前半を描いていた。

粛宗(スクチョン)、英祖(ヨンジョ)、淑嬪(スクピン)・崔(チェ)氏、李麟佐(イ・インジャ)。登場人物は実在した人ばかりである。ただし、主人公のテギルだけは架空の人物だった(一応、1693年に生まれて早世した粛宗の息子が実は生きていたという設定になっていたのだが……)。

このように、実在した人物の中に架空の人物を少し入れて物語を大きく見せるのをファクション時代劇という。事実(ファクト)と創作(フィクション)を掛け合わせた造語である。『王女の男』が大ヒットして、ファクション時代劇が数多く作られるようになった。その流れを『テバク』も受け継いでいたのである。

実際、『テバク』はテギルがいることによって、粛宗や英祖といった実在の人物がより多面的な姿を見せることができていた。

 

歴史の教訓が込められている

韓国の人たちが時代劇を好むという点では、歴史好きが多いことも見逃せない。しかも、韓国では「歴史」は単なる学問や教養ではなく、むしろ教訓や生き方なのである。そこには、韓国という国の成り立ちが決定的に影響している。

朝鮮半島は20世紀になってから苦難続きだった。

1910年には日韓併合によって日本の植民地になり、その支配は1945年まで続いた。一旦は朝鮮半島全土で解放の喜びにひたったものの、それも束の間で、国家は南北に分断され悲惨な戦争も起こった。

こうした民族の悲劇をつきつめると、19世紀に孤立した状態で世界の大勢を見誤ったことが起因していた。その反省に立ち、韓国の人たちは歴史から多くの教訓を得ることが大切だと考えるようになった。

ここに、韓国で時代劇が好んで見られる下地がある。

もともと、韓国の人たちはテレビドラマが大好きだ。様々な人間関係に深い興味を持つのが韓国の国民性であり、その人間関係を面白く描いてくれるドラマは最高のエンタテインメントなのである。しかも、時代劇の場合は、そこに人生に役立つ教訓が散りばめられている。このジャンルが栄えるのも、韓国では必然なのである。

 

安心して見られるサクセス・ストーリー

韓国の時代劇の特徴を簡単に言うと、「成功物語」と「面白く作る」である。

まずは、「成功物語」について。

時代劇の主人公は歴史上の大人物が多いが、どの作品でも主人公が苦難の中で少しずつ成長していく姿が描かれている。『朱蒙(チュモン)』『宮廷女官チャングムの誓い』『ファン・ジニ』『太王四神記』『イ・サン』『トンイ』など、ほとんどの時代劇は特定の人物のサクセス・ストーリーなのである。

しかも、主人公の成長を視聴者も一緒に見守ることができる。だからこそ、誰もが韓国の時代劇を安心して見ていられるのである。

次に、「面白く作る」について。

時代劇は歴史を扱っているので、どうしても史実に拘束される部分が多い。けれど、韓国の場合、時代劇の制作者たちはわりと自由奔放にドラマを作っている。

もちろん、曲げてはならない史実というものがあり、その点で勝手な歴史を作るわけにはいかないが、大方の流れが事実と合っていれば、細部はとことん創作して話を面白くするのが韓国ドラマの特徴。その典型は『宮廷女官チャングムの誓い』。なにしろ、歴史書『朝鮮王朝実録』に書かれている長今(チャングム)の記述は10カ所だけなのに、そこから54話にわたる壮大な宮廷物語を紡いだのである。その創作力たるや本当に凄い。

それもすべて制作陣が徹底して面白さにこだわっているから。いわば、韓国で時代劇が人気なのは、作る人たちの情熱がすばらしいからなのだ。

 

カギを握るのは朝鮮王朝時代

日本でも韓国の時代劇が人気を集めているが、見る際にどうしてもネックになるのが朝鮮半島の歴史の知識だ。歴史の背景そのものがわからなくて、ストーリーを理解するのに苦労している人も多いだろう。

けれど、韓国の時代劇は基本的に人間の普遍性を描いているので、たとえ歴史の流れがつかめなくても、そのことを気にする必要はない。むしろ、風土や習慣の違いを目で楽しむくらいの軽い気持ちを持ったほうが、韓国の時代劇にすんなり入っていけるだろう。

過去2000年の朝鮮半島は、三国時代→新羅時代→高麗王朝時代→朝鮮王朝時代、と続いてきた。

特に重要なのが朝鮮王朝時代。1392年から1910年まで518年も続いたこの時代は、今の韓国を決定づけた最重要な期間だった。それが証拠に、時代劇の8割以上はこの朝鮮王朝時代を舞台にしている。

この朝鮮王朝時代の特徴は「王を頂点とする中央集権国家」「徹底した儒教社会」「政治は武人でなく文人が仕切っていた」「厳格な身分制度があった」ということ。この4つを常に頭に入れておくと、韓国の時代劇をよく理解できるようになるだろう。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.06.25