『テバク』の全24話の放送を終えて、チャン・グンソクは満足感があふれるコメントを発表している。もちろん、すべてに満足できたわけではなく、惜しいと思う部分もあったことだろう。それでも、『テバク』はチャン・グンソクにとって忘れられない作品になった。
『テバク』は多くのものを残した
週明けが急に寂しくなってしまった。
3月下旬からは、月曜日と火曜日に韓国で『テバク』の放送があり、このドラマを見ることが、いっときの習慣になっていた。
視聴率の結果にも一喜一憂し、週の前半は『テバク』のことを考えるのが当たり前だった。その『テバク』も6月14日に最終回が放送されてしまい、今週は久しぶりに『テバク』の放送がない週明けとなった。
ちょっとした虚脱感が残る。
一般の視聴者がそんな気分を味わっているほどだから、主役を務めたチャン・グンソクは、どんな思いで『テバク』のない日々を過ごしているのだろうか。
彼にしてみたら、感傷にふけっている暇はないかもしれない。7月には日本でツアーも開催される。その準備で忙しいはずだ。
それでも、チャン・グンソクは折にふれて『テバク』の一場面ずつを思い出しているに違いない。
それほどに、この作品は彼に多くのものを残した。
俳優を続ける理由
6月14日に『テバク』の放送が終了したあと、チャン・グンソクは次のように感想を述べている。
「作品を通して、私が一体なぜ俳優を続けているのかという理由を見つけ出すことができました」
このコメントの中に、チャン・グンソクの万感の思いを感じ取ることができる。
振り返れば、最初から『テバク』に対する彼の意気込みは半端ではなかった。
それをヒシヒシと感じたのは、放送が始まる前の制作発表会のときだった。チャン・グンソクはニコリともしないで、冷静に『テバク』に主演する所感を述べた。
「ディテールやシナリオが目の前に浮かびました。目を閉じてジッとしているときも、もし自分がテギルならどんな表情をするのか、そんな好奇心が生まれました。この作品をのがしたくない、ぜひやってみたいと考えました」
彼が「のがしたくない」と強く思ったのは、『テバク』が自分の俳優人生に転機をもたらしてくれる、と直感したからだった。
同じ制作発表会で、チャン・グンソクはこうも述べている。
「『美男<イケメン>ですね』のようなものを追求する俳優にかぎっていたのではないか、という疑念がいつもありました。(数え)30歳になります。今までのものを捨てて、(『テバク』が)新しいものを身につけられる作品になるのではないか、と思います」
この発言は意味が深かった。
「背水の陣」で臨んだ作品
俳優にかぎらずどんなジャンルでも、成功体験が将来を閉ざす、ということがよくある。人は一度の成功に固執しすぎて、新しいチャレンジをせずに、自らの可能性を狭めてしまいがちなのである。
それでも、一度も成功しなかった人から見れば羨ましいかぎりなのだが、チャン・グンソクほどのトップレベルになると、常人とは目標設定が根本的に違う。
確かに、彼は『美男<イケメン>ですね』で大成功を収めた。韓流人気の頂点を究めた、と言っても過言ではなかった。
しかし、俳優としてのチャン・グンソクは苦悩の道に迷い込んだ。とりわけ、『ラブレイン』と『キレイな男』の視聴率が非常に悪く、彼は自尊心を大いに傷つけられたに違いない。
状況としては、『美男<イケメン>ですね』の大成功を忘れて、一からやり直す覚悟を持たなければならなかった。そんな追い込まれた状況の中で『テバク』のオファーを受けたのである。
制作発表会で述べたように、「今までのものを捨てる」という覚悟に至ったのは、危機感がとても強かったことの表れだ。
いわば、「背水の陣」で取り組んだ『テバク』の主演。撮影では本物のヘビを食らうほどの俳優魂を見せていた。
負のイメージを払拭
凄まじい意欲で『テバク』に取り組んだチャン・グンソク。多くの視聴者が指摘していたのは、「脚本の出来がよくなかったことが不運だった」ということだった。
結局、ドラマが面白いかどうかという根本の部分は、脚本の仕上がりに左右されることが多い。
『テバク』の場合は、実績がある脚本家がシナリオを書いていたのだが、今回にかぎっては「ワクワクするようなストーリー」というわけにはいかなかった。むしろ、興ざめさせられる場面も少なくなかった。
これでは、視聴者をグイグイ引きつけることはできない。
視聴率が1ケタ台からなかなか上がっていかなかったのも、ストーリー展開に問題があったと考えざるをえなかった。
それでも、全24話の平均視聴率は9.3%だった。最近の傾向を考えると、決して悪い数字ではない。最終回の視聴率もちょうど10.0%で締めくくり、2ケタ台に復帰して終わったのは良かったと言える。
チャン・グンソクの期待はもっと高いところにあったはずだが、『ラブレイン』と『キレイな男』の負のイメージを払拭することはできたと思う。
つかんだ手応えの根拠とは?
『テバク』の放送が終わったことに対して、チャン・グンソクはこうも言っている。
「撮影現場では、若い俳優だけでなく、尊敬する先輩たちからもたくさんの指導を受け、さらに一緒に楽しく作品を作ることができて幸福でした」
この発言の中で、「幸福」とあえて表現していることに注目したい。
「うれしい」でもなく「喜び」でもなく、はっきりと「幸福」と口にしたチャン・グンソク。そこには、『テバク』に関して大きな手応えを感じていることがうかがえる。
その手応えの根拠とは何か。
ここで重要なのは、「作品を通して、私が一体なぜ俳優を続けているのかという理由を見つけ出すことができました」という発言だ。
この言葉を見るかぎり、以前のチャン・グンソクは「このまま俳優を続けていけるだろうか」と悩んでいたに違いない。
その不安は強くなるばかりだったのだが、『テバク』で主人公テギルを演じきったことで、チャン・グンソクは「大丈夫。俳優を続けていける」と確信を持つことができたのだ。もちろん、彼があえて「先輩」と呼んだチェ・ミンスやチョン・グァンリョルの影響もあっただろう。名優たちとの共演を通して、チャン・グンソクは今後自分がめざすべき目標をしっかり見据えたのだ。それによって、このまま俳優を続けていく理由をしっかりと見つけ出した、というわけだ。
様々な形で、『テバク』はチャン・グンソクに自信をもたらす作品になった。演じきった成果はとても大きかったと言うべきだろう。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
コラム提供:ロコレ
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