「コラム」芸能界にも存在する「兵役のがれ」の実態

5599

社会制度の中で日本になくて韓国にあるもの。様々な制度が思い浮かぶが、最たるものが徴兵制だろう。徴兵期間は陸軍の場合で21カ月。韓国男子は兵役法によって徴兵の義務を負わされている。しかし、意図的に兵役をのがれようとする人たちも確実にいる。

公職者と直系子孫の兵役問題

韓国の男子には兵役の義務がある。女子は志願によって兵役に就くことができる(写真/韓国陸軍公式サイトより)

意図的な兵役のがれは、特に特権階級や富裕層に多かった。そこで、1999年には「公職者等の兵役事項の申告および公開に関する法律」が制定されている。

その公職者に該当するのは以下の人たちである。

1.政務職公務員(大統領、国会議員、長官・次官級など)

2.一般的な公務員など(等級が4級以上)

3.現役軍人(階級が大領〔大佐〕以上)

4.教育公務員

5.地方自治団体の長と地方議会の議員

上記の公職者と直系子孫は兵役義務をどのように果たしたかが詳細に調べられて公開される。

しかし、現実には公職者と直系子孫の兵役免除率は一般人よりはるかに高くなっている。この場合、兵役免除の根拠として多く挙がるのが「韓国国籍の離脱」である。特にアメリカ国籍の取得が圧倒的に多くなっている。いかにも、特権階級ならば容易に操作できそうな兵役免除理由である。

こうした状況を受けて、「2014年版国防白書」も次のように記述している。

「兵役事項公開制度を導入して公職者本人と直系子孫の兵役事項を公開し、国民の知る権利に応え、兵役履行の透明性と信頼性を高めている。しかしながら、いまだに高位公職者とその直系子孫、芸能人、スポーツ選手など社会的に関心を集める人たちの兵役義務履行実態に対する不信感が残っている。これを解決するために、社会的に関心を集める人たちの兵役事項集中管理の制度を導入する法案の制定を推進している」

兵役のがれの摘発

「2014年版国防白書」は、「兵役履行の透明性と信頼性を高めている」と自画自賛した直後に、著名人たちの兵役義務履行に不審な点があると指摘せざるをえなくなっている。それゆえ、新たに著名人たちの兵役事項を集中管理する法律の必要性を訴えている。問題の根は相当に深いと言っていい。

さらに、「2014年版国防白書」は兵役のがれに対する具体的な方策まで明らかにしている。

「国防省と兵務庁は、疾病や心身障害を理由に兵役免除・軽減処分を受けた人がごまかしを使ったと認定された場合、再び身体検査を行なって、兵役処分を変更できるようにしている。兵役のがれを助長するようなインターネットサイトの取り締まりも強化している。2012年4月から特別司法警察権を確保して兵役のがれの犯罪に対して兵務庁職員が直接的に捜査することによって、2014年11月までに93名の兵役逃れの容疑者を摘発している」

「兵役処分の公正さを確保するために、持続的に徴兵検査体系を改善している。精密な身体検査と心理検査のために、先端医療設備と専門医療担当者を持続的に補完しており、今後もより精密な検査のために設備と担当者の充実させていく予定だ。また、重要な疾患に対する現役兵の判定基準を強化するなど、身体検査の規則も合理的に改善していく計画である」

上記の記述を見るかぎり、現在の徴兵検査では意図的な兵役のがれを防ぐことが不可能だと認めているようなものだ。

根本的な問題は、徴兵検査を受ける人数に対して専門医療担当者が少なすぎることが挙げられる。しかし、現実的にいうと、専門医療担当者を増やすとそれだけ人件費が飛躍的に増えてしまうという問題がある。そこが、実務的に徴兵検査を仕切る兵務庁としては悩みの種なのだ。

兵役という重圧

9944兵役のがれを防ぐために陸軍では子供に軍隊に親しんでもらう活動を続けている(写真/韓国陸軍公式サイトより)

苦肉の策として兵務庁が始めたのが「密告の奨励」である。具体的にいうと、申告センターの創設だ。

それによって、国民から兵役のがれに関する情報提供を呼び掛けている。

しかも、その情報が有益だった場合は報奨金を出す制度を設けていて、報奨金の予算を毎年増やしているほどだ。

それは、いったい何を物語っているのだろうか。

確かに兵役は韓国の男子全員に課せられた義務であり、それを意図的に回避しようとするのは、脱税と同じような犯罪と言えるかもしれない。しかし、国民の義務を果たすべき兵役が、まるで踏み絵のように扱われているというのが韓国社会の現状である。

一方の日本。徴兵制がないためにそういった兵役の問題が起こらないのは当然だ。自衛隊はあくまでも志願兵によって成り立っていて、兵役とは別の形での軍事組織になっている。

逆に韓国は、分断国家として北朝鮮と激しく対峙している状態であり、兵役をなくすことはできない。

とはいえ、誰もが屈強なからだに生まれて徴兵制の義務を完璧にこなせるわけではない。そういう身体的な問題の他にも、本人でなければ一家の家計を支えきれないという家庭内の問題もある。

スポーツ選手であれば、現役の最盛期に軍隊に行かなければならない。それは、果たしてどれほどのマイナスになるのか。

また、芸能人は人気絶頂なときに兵役に行かなければいけないとすれば、その精神的な重圧は相当なものだろう。

社会的弱者を生む制度

徴兵制が存在する以上、韓国の男子は兵役の義務を果たす必要があるが、個人の事情によって、必ずしもそうできない場合があるのも確かだ。

仮に深刻な持病を抱えているために兵役免除になったとしても、その人は「意図的に兵役をのがれたのではないか」という疑いを持たれることは少なくない。兵務庁が申告センターを設けたように、国民の誰もが軍隊に行っていない人に対する監視の役割を果たしてしまっている。

その場合、弱者に向けられる目がさらに厳しくならないだろうか。

現実的に身体の問題や家庭環境に関して、兵役免除を受ける人が毎年5%前後生じている。彼らは、「本来なら立派に兵役の義務を果たしたい」と思っていても、現実的にそれができない事情を抱えているために兵役免除になっている。

そういう人たちに対して「意図的な兵役のがれ」という懐疑心を少しでも抱くことがあれば、国民の間で不信感が募るという結果になるのではないか。

確かに意図的な兵役のがれが多いというのも事実だ。富裕層や特権階級の間で息子の兵役免除率が高いし、情実社会とも言える韓国では、様々なコネを使って兵役問題を有利に進めるケースも存在する。

そうだとしても、本人が「立派に兵役を果たしたい」と思っていてもできない事情をくんであげなければならないのではないだろうか。

兵務庁が申告センターを設けて兵役のがれを徹底的に究明する姿勢によって、結果として兵役免除になった人たちが社会的弱者として差別されることがあってはならない。

人間の尊厳の問題

0044兵役のがれについては国民の厳しい目が光っている(写真/韓国陸軍公式サイトより)

最近は、徴兵検査で精神鑑定が重要視されている。軍隊の中で自殺や乱射事件などが発生するため、入隊前に精神に問題がある人を排除しようということから、精神判定が強化されているのだ。

仮に徴兵検査で精神的な問題が見つかって兵役免除になった場合、そうした事実が公になることで、当人が精神的苦痛を受けてしまうのは想像にかたくない。

徴兵検査というのは、戦争で働いてくれる屈強な人間を選抜するようなもので、ある意味では人間に優劣をつける側面がある。つまり、徴兵検査自体が社会的弱者を次々と生んでしまうのは否めないし、監視によって兵役逃れを摘発しようという風潮は、かえって社会をぎこちなくさせる。

同時に、芸能界でも兵役に対する取り組みによって、その人の愛国心を測ろうという風潮が強くなっている。

愛国心は、個人個人が自分の信条として心に秘めておくものであるはずなのに、それが芸能界において意思表示を強制される場合もある。

確かに韓国の芸能界では、愛国心がないと見られたら致命傷になるが、だからと言って誰もが人気絶頂のときに軍隊に行きたくないのは当然であり、そのことを非難される必要はない。

なんといっても軍隊は戦争の当事者になる組織であり、敵を滅ぼす手段を教えられる場所である。良心によってそれを「NO」と言いたい人もいるはずだし、「そういう心情を無視してみんな軍隊に入れてしまえ」というのは乱暴な意見に違いない。

兵役というのは日本からまったく窺い知れないが、人間の尊厳の問題を含んでいる。それだけに、社会的弱者を生んでしまうという事実と、そういう人たちに対する配慮を忘れてはならない。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.05.08

blank