韓国ドラマの要素が詰まった珠玉のドラマ
韓国ドラマが日本に定着してから長い年月が経ちましたね。あの時のヒートアップ感はないものの、韓国ドラマは常に進化を遂げているように思います。古い作品にも新しい作品にもそれぞれ魅力があり、同じ作品を見ても見る時期によって感じ方も変わりますよね。人の感情というのは不思議です。世の中は常に変わっていきますし、人の心も同じかもしれません。
こちらをお読みくださっている皆さんはご結婚されているでしょうか。
もしくは、長くお付き合いをしている恋人がいらっしゃいますか。
もし今、自分が記憶喪失になって、相手の顔も名前も夫婦であったことも忘れているのに、再びその人に出会ったら、またその人のことを好きになると思いますか?
自分の潜在意識の中にその人に惹かれた記憶というのはいつまでも残っているものなのでしょうか……
“自分だったらどうだろう”
チ・ジニ、キム・ヒョンジュ主演のドラマ『恋人がいます(原題)』は思わずそんなことを考えてしまうドラマでした。
『恋人がいます』は交通事故、記憶喪失、出生の秘密、不倫、企業の不正など韓国ドラマの要素が満載のまさに“ザ・韓国ドラマ”です。
50話の長編ドラマですが、回を追うごとにおもしろくなっていきました。
チ・ジニの不倫モノは見たことがありますが、今回は特にせつないです。
序盤で若い後輩ソルリ(パク・ハンビョル)に惹かれていくジノン(チ・ジニ)の姿には女性として正直少々怒りを禁じえません(笑)
確かに若い女子からしたら40代以降の男性は、落ち着いていて風格もあって男としての魅力が溢れているのでしょう。
まさに、チ・ジニもそうですよね。
『温かい一言』の中のチ・ジニもそうですが、若い女性からひたすら恋されます。
不倫するのはチャラ男ばかりとは限りません。
絶対人の道に外れなさそうな真面目な人だからこそ魅力があるのです。
皆さんのお相手も、外では風格のある落ち着いた男性として実はモテモテなのかもしれません。かつて、皆さんが好きになったお相手ですから。
ジノン(チ・ジニ)がソルリ(パク・ハンビョル)から誘惑されたときに、こう言います。
「正解がわかっていて間違った答えを書く人はいない」
さすが真面目!
そう言いながらも人間て弱いんですね、魔が差すこともあるのが人間なんでしょう。
そんな魔が差してしまったジノン(チ・ジニ)もある時から苦しみ始めます。
妻であるヘガン(キム・ヒョンジュ)を捨ててしまったからです。
ドンドン惹き込まれていく“韓ドラマジック”
韓国語で“애인”を直訳すると“愛人”となります。
それにしても、言葉のニュアンスというのは微妙なものですね。
このドラマの邦題は『愛人がいます』となっています。
このタイトルは衝撃的ですが、
日本人の感覚でいう“愛人”という捉え方だけではこのドラマは語り尽くせません。
“愛人”ではなく原題のとおり“恋人”という表現のほうがしっくりくる作品です。
不倫のドラマというより、不倫はこのドラマのほんの一片でしかなく、本当のテーマは他のところにあるからです。
『愛人がいます』というタイトルから想像されるような通り一遍のドラマではありません。
原題の『애인있어요』は、
「愛人がいます」
「恋人がいます」
「愛する人がいます」
全てのニュアンスを含む言葉のようですね。
なので、このドラマはまさに
『애인있어요』なのだと思います。
このドラマは、記憶を失った女性がかつて死ぬほど憎んでいた夫と再び出会い愛に陥るというストーリーですが、それと並行して、生まれて間もなく離れ離れになった双子の姉妹の波乱万丈な人生も描かれています。
チ・ジニとキム・ヒョンジュはかつて、『波乱万丈ミス・キムの10億作り』で共演していました。
あの頃はまだ若くて初々しい二人でしたが、この『愛人がいます』では、しっとりとした大人の恋愛をとてもせつなく演じています。
チ・ジニの演技の素晴らしさもさることながら、キム・ヒョンジュの演技が素晴らしく、彼女なしではこのドラマは成立しないのではと思わせるほど、引き込まれるものがありました。
双子の役ですから当然二役になるわけですが、深みのある演技力でヘガン(キム・ヒョンジュ)とヨンギ(キム・ヒョンジュ二役)の心情を絶妙に表現していたように思います。
キム・ヒョンジュは『家族なのにどうして』でのガンシム役が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
姉弟役で共演したZE:A のヒョンシクともとても仲良しのようですね。
「彼が男性に見えたこともありますよ。どうしてそんなに可愛いの?と、いつも本人に言っていましたし」と、バラエティ番組で堂々と発言してしまう姿にも好感が持てます。
キム・ヒョンジュはコミカルな役から悪役まで幅広い演技力を誇る大注目の女優ですね。
『愛人がいます』は正直、序盤はどの人物にも共感ができませんでした。
理解しようと思えば思うほどわからなかったのですが、中盤からはどっぷりはまりました。
韓ドラマジック、恐るべし!です。
『愛人がいます』は韓国での視聴率はあまり振るわなかったものの、OSTの水準がかなり高かったとの評価を受けています。
その主題歌を歌うのは『冬のソナタ』でお馴染みのRyuです。
挿入歌になっている“歳月”は元々Ryuが日本で発売した楽曲ですが、『愛人がいます』に合わせて、Ryuが新たに韓国語の歌詞を書き下ろしました。
Ryuはインタビューの中で次のように話しています。
「感情線に沿った適材適所の絶妙なタイミング、これはOST活用のBESTだと思う。音楽監督と編集者に感謝を伝えたい。このような場面を見た後は興奮しすぎて眠れない、その中に私の歌があるということにとても満足している」
本当にそうでした。
主人公二人の“出会いと別れ、再会、後悔、より深い愛”を全くセリフがない場面で、この歌が二人の感情をドラマチックに表現しています。
インストゥルメンタルだけの部分と歌詞で表現している部分とを微妙に掛け合わせている仕掛けも絶妙でした。
ドラマにはまってしまう理由の一つには、音楽の力がかなり作用していると思います。
音楽は人の五感を揺さぶります。
ドラマにおける音楽の力は本当に大きいですね。
死ぬほど憎んでいた相手と再び愛に陥ることができるのか、チ・ジニとキム・ヒョンジュの愛を中心に、中年夫婦の愛や葛藤も描かれているこの作品は日本の韓流ファンの心もきっと捉えることができるでしょう。
文=朋 道佳(とも みちか)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/