『宮廷女官 チャングムの誓い』でも大きく取り上げられた韓国の宮廷料理。すべては国王のために用意された垂涎の豪華料理だった。そういう意味では、朝鮮王朝時代に君臨した27人の国王は、究極のグルメだったといえる。果たして、国王たちは具体的にどんなおいしい料理を食べていたのか。
王は1日に5回も食べていた
現在の韓国料理の源流が朝鮮王朝時代の宮廷料理だといっても過言ではない。宮中で開発された調理方法が最先端の技術として庶民の厨房にも伝えられ、それが伝統として今に息づいているからだ。
もちろん、一般家庭で宮中と同じ食材を使うことはできなかったが、少なくとも「薬食同源」の考え方は朝鮮半島のどこにも広く伝えられた。
いわば、宮廷料理は韓国の食文化の基本。それを思う存分に堪能したのが、ときの国王だったというわけだ。
それでは、具体的に国王の食事を見ていこう。
宮廷料理は朝鮮半島全土から集められた進上品を使って作られた。調理をするのは、腕に自信がある女官と、王宮の外部から呼び寄せた男の調理師だった。
王、王妃といった王室の中心人物には1日5回の食事が用意された。こうした人たちが食べる料理は、特にスラサンと呼ばれた。
その日の一番最初の初スラ(正式には初朝飯という)では、主にお粥を食べた。そして、午前10時頃に朝スラ、午後に昼スラ、夕方5時頃に夕スラを豪華に取った。さらに、最後に夜食を食べて1日をしめくくった。
どう考えても食べすぎである。歴代の国王には口内炎が多かったというが、なんとなくわかるような気がする。
朝と夕のスラサンは超豪華版
最も重点が置かれた食事は朝スラと夕スラである。王がスラサンを食べる時には3人の毒味用の女官がついて、出された料理がチェックされた。
それでは、どんなものがいつも出されていたのか。
スラサンの基本は御飯、湯、汁のある煮物、鍋物、沈菜(キムチの原型の漬物)と12種類のおかずで構成された。
御飯は白飯と赤飯の二つ、ワカメスープとコムタン(牛の肉と内臓を長時間煮たスープ)も出て、どちらか好きなほうを食べられるようになっていた。
12種類のおかずも豪華版だ。肉や魚の焼き物、チヂミ、肉類の蒸し物、熟菜(野菜類を茹でて作るナムル)、生菜(野菜類を生のままで作るナムル)、煮込み、漬物、魚介類の塩辛、干し魚、海苔、刺し身、半熟卵など。もちろんすべてを食べることはできない。少しだけ箸を付けて終わり、というわけで、残るものが多かった。
今でも韓国では、「食べ物を残すということは十分に満足したという意思表示である」という考え方が根強く、食べ物を残すことに抵抗感が少ない。「もったいない精神」からは縁遠いのも、スラサンの影響かもしれない。
食器は季節によって異なった。寒い季節には銀食器を使い、暑い季節には磁器食器を使った。
けれど、スプーンと箸はいつも銀のものだった。銀は毒に接すると変色するため、事前に毒の有無をチェックできる効果もあったからだ。
やっぱり王は食べすぎだった
朝起きてすぐに寝床でお粥や重湯などを食べるのが初朝飯である。乾き物のおかずが3種類出て、他に塩、蜂蜜、味噌などが用意された。
漬物として、薄く切った白菜や大根で作った汁の多いキムチと、大根だけを大きく切って塩につけて作る汁なしのキムチがよく出た。
昼スラはごく簡単な軽食である。とはいっても、庶民からすればとんでもない量だ。温麺、冷麺、雑煮、マンドゥ(日本でいえば餃子)、肉の蒸し物、刺し身、チヂミなど。これでも、スラサンの中では「軽食」とされた。やっぱり食べすぎである。
夜食によく出されたのは麺、薬食、シッケ(日本でいえば甘酒のようなもの)、ウユジュク(牛乳のお粥)など。『宮廷女官 チャングムの誓い』にもウユジュクが出てくるが、当時の牛乳は高価で一般庶民が簡単に口にできるものではなかった。
なお、王が食べる料理は全国の特産品で作られただけではなく、その調理方法もまた独特なものだった。特に歴代の王に愛された特選料理を紹介しよう。
まずは、神仙炉(シンソルロ)。これは、韓国独自の高級な鍋料理である。使われる食材は、牛肉、松の実、岩茸、胡桃、銀杏など。それらを織り交ぜてかまぼこ状にしたものを、中央に突起がある鍋にていねいに並べて入れていき、牛肉のすまし汁を注ぎ込む。そして炭の入った炉に火をつけて煮る。鮮やかな色彩が食欲をそそるが、牛肉のダシもよく効いていて、上品な味わいが楽しめる。
イ・ヨンエも、チャングムを演じるにあたって、宮中料理研究院で神仙炉の作り方を習っている。
「神仙炉の場合は、そのまま材料を鍋に入れるのではなく、色彩や角度のバランスを考えます。それによって見え方が違いますから。食材の一つひとつに意味があるということを習いました。宮中料理を見ればその国の料理がどのようになっているのかがわかります。国王のスラサンはその時代の状況をよく伝えてくれるということです」
さすがに、イ・ヨンエはよくわかっている。やはり、『宮廷女官 チャングムの誓い』の主役にうってつけの女優だったのだ。
おいしい健康食がズラリ
その他の特選料理を見てみよう。
生きた鯉と幼い鶏で作る最高の保養食と言われたのが「ヨンボンタン(龍鳳湯) 」。スタミナ料理としても有名で、これを食べると90歳の老人も子を得るという説もあった。にわかに信じがたいが……。
また、「いちじくの花袋」も宮廷料理の定番だった。いちじくの実は民間医療薬として朝鮮王朝時代の医学書『東医宝鑑』でも貴重とされていた。血圧降下、健胃、滋養、便秘解消、活力回復に効果があるということだ。
また、中国の医学書『本草綱目』には腸の作用を円滑にし、咽喉の痛みを治すとも書かれていて、消炎用にも使われた。ここまで評価されているいちじくの実を他の野菜と混ぜてマンドゥ(餃子)にするのが「いちじくの花袋」。その姿が花のように美しくて花袋という名が付けられた。
今でも高価なカニも、よくスラサンに上がった。料理の名は「ケチム」。カニの煮物という意味だ。カニは脂肪が少なく蛋白質が多い。特に必須アミノ酸がたっぷり含有されていて成長期の子供によいとされた。世継ぎ候補にはさぞかしケチムがいつも用意されていたことだろう。
また、カニは肥満、高血圧、心臓病などの予防に効果があるとされ、さらに、精神エネルギーを充満させる食材として宮廷で本当に重宝された。
けれど、庶民の口にはめったに入らなかった。
それは現在も同じである。
文=「ロコレ」編集部
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