『冬のソナタ』の大ヒットによって2004年頃から日本で起こった韓流ブームが、日韓関係において果たした役割は大きい。ただし、この韓流ブームには下地があった。それは2002年にFIFAワールドカップ日韓大会が開かれたことだ。あのとき、日本からも大勢のファンが韓国の地方に出掛けて生でワールドカップを観戦した。
『冬のソナタ』の成功
ワールドカップのとき、韓国に行った日本人は試合観戦だけでなく、韓国の文化や暮らしを体験する機会を得た。
それまで、日韓両国が共同で世界的なビッグプロジェクトをやり遂げたことはなかった。それがワールドカップという、世界最大級のスポーツイベントを共催して成功させたのである。
この大会が、両国の草の根的な交流を促進させたことは間違いない。そういう下地があったからこそ、NHKはBSの海外ドラマの枠で韓国ドラマを放送することに前向きになった。その第1作目に選ばれたのが『冬のソナタ』だった。
NHKとしては、初めて放送する韓国ドラマに不安があった……果たして、日本の視聴者が好意的に受け止めてくれるかどうか、と。
しかし、心配は杞憂だった。
放送が始まると「ストーリーが面白い」「主人公のペ・ヨンジュンとチェ・ジウが魅力的」「映像が美しい」「洗練された音楽が素晴らしい」といった称賛の声がNHKに数多く寄せられた。
ヨン様の来日フィーバー
『冬のソナタ』の好評ぶりに気をよくしたNHKでは、全20話の放送が2003年9月に終わったあと、同年の12月に同じくBSで1日に2話ずつ2週間の集中放送を行なった。ここでも反響が大きかった。
そして、ついに『冬のソナタ』の地上波放送が決定した。NHKの総合テレビで2004年4月から放送が始まり、これに合わせてペ・ヨンジョンが来日した。羽田空港には5000人以上のファンがつめかけたが、熱気に満ちた光景は「壮観!」の一言だった。
ここから本当の『冬のソナタ』の大ブームがスタートしたのだ。
とても印象的だったのは、ペ・ヨンジョンが空港ロビーに出てきたときの「こんなに多くの人たちが……」という感激ぶりだ。
その恥じらいが、日本の女性ファンの心を射止めた。同じく空港での来日シーンでも、余裕たっぷりに堂々とふるまうハリウッドスターとは物腰が違った。
あらためて、謙虚な彼に惹かれた日本人が多かった。それはまた、アジアの価値観を共有するスターの登場を強く印象づけた瞬間だった。
韓流に目覚めた女性たちは、自ら積極的に行動を始めた。追っかけをする、韓国のロケ地を訪ねる、情報を得るためにパソコンを覚える、ファン同士でオフ会を数多く開いて交流する……など。その姿を揶揄する一部の保守的な人がいたことは事実だが、そんな偏見を吹き飛ばして、韓流ファンは日本に元気をもたらした。
韓流ブームは間違いなく、欧米一辺倒だった人たちが隣国に目を向ける好機になったのである。
韓国時代劇の隆盛
『冬のソナタ』の放送をきっかけに起こった日本での韓流ブーム。この流行は、一過性にすぎないと思った人もいただろうが、その予測は完全にはずれた。
韓流は一介のブームというより、大衆文化の1つのジャンルとして日本社会に定着し、次の段階に進んでいく。
2004年の秋からNHKのBSで『宮廷女官 チャングムの誓い』が放送されたこともあり、韓国時代劇が日本で人気を集めるようになった。それにつれて、韓国の歴史に興味を持つ人も増えていった。
数年前のことだが、ソウルの王宮めぐりをしたときにとても印象深い光景に出くわした。日本から来た年配の夫婦が、若い女性のガイドに向かって朝鮮王朝の歴史に関する専門的な質問を浴びせていたのである。
ガイドも「韓国人よりも朝鮮王朝の歴史に詳しいですね」と感心していたが、夫婦が口をそろえて「韓国時代劇のおかげですよ」と言っていた。
韓流ファンの中には、「日本の学校では韓国の歴史をほとんど習いません。韓国時代劇で興味を持って調べて見ると、初めて知ることばかりでした」と語る人もいた。
歴史を知れば、その国への関心はさらに倍加する。韓流ブームは日本の人たちに韓国の歴史を紹介する役割も果たしたのである。
韓国ドラマの傑作が鍵を握る
ドラマから火がついた韓流ブームは音楽の世界も取り込んでいく。
東方神起を起爆剤にして日本でもK-POPが人気となり、韓流のファン層は10代や20代にも広がった。
それにつれて、東京の新大久保は代表的なコリアタウンとして有名になり、大勢のファンが連日詰めかけるようになっていった。
その人出がピークに達したのは2011年の夏頃だろうか。大久保通りに並ぶ韓流ショップは大盛況で歩道から人がはみだすほどだった。
目当てのスターのグッズや韓国化粧品を買って、美味しい韓国料理を堪能する……韓流を一番身近に感じる街としての魅力が新大久保にはあふれていた。
そんな街角で聞いた一言が今も耳に残っている。ある女性が「本当に韓国にあこがれるわ」と言ったのだ。
しかし、韓流が注目されればされるほど、そこに「アンチ」も生まれる。加えて、政治的な日韓関係の悪化によって、韓流はかつてない逆流にさらされた。
これから、日本で韓流はどうなっていくのだろうか。
鍵を握っているのは、一にも二にも「韓流の中身」だ。特に、韓国ドラマで傑作が出るかどうかが重要である。
韓国では最近、『太陽の末裔』が爆発的なヒットを飛ばした。確かに面白い。こういう作品を作れるのだから、やはり韓国ドラマには底力がある。
ドラマというのは、放送回数が多いだけに、その国の生活の隅々まで描写することができる。まさに、韓国を知るための最適なコンテンツである。
今後は、『太陽の末裔』のような傑作ドラマや、すばらしいパフォーマンスを見せるK-POPスターによって、韓流が日本でさらに発展していくことを願っている。
(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)
コラム提供:ロコレ
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