<コラム>元「KARA」ニコルの笑顔と韓国芸能界の法規制

<コラム>元「KARA」ニコルの笑顔と韓国芸能界の法規制

「KARA」を脱退し、アメリカへ修行の旅に出たニコル。彼女の最近のSNSには笑顔の写真が載っている。スタジオで練習中の写真だが、長かった悩みの期間が終わったかのように、明るく笑っている。この彼女の笑顔はいったい何を意味するだろうか。

3年前の「KARA」脱退騒動の時も、5年前の「東方神起悲劇」の時も、K-POP界の芸能人と所属事務所との「契約」をどう見るかの問題が言われていた。ネット上では、一部芸能事務所の「奴隷契約」の内容が話題になることもあったが、「契約自由の原則」の解釈もあり、単純な問題ではなかった。

その間も、K-POP界は成長し続けていた。日本では既に定着しているし、アジア諸国や欧米、南米などの地域でも勢いを増している状況だ。一部の国では熱狂的なファン層が形成されており、K-POPはもはや韓国のコンテンツ・ビジネスを牽引する存在にまで成長した。

その中心にあるK-POPアイドルたちを育成し、マネジメントしていくのが「芸能プロダクション」だ。芸能人が所属している会社であるため、所属事務所、芸能事務所とも言われる。韓国では、ここ数年K-POPブームのお陰で、一部の芸能プロダクションは上場を実現したり、売上規模を数倍にまで拡大することに成功している。

華やかな表舞台につられ、アイドルになりたいという若者も後を絶たず、脚光を浴びているこの業界だが、実はその裏には問題点も山積しており、現在水面下では法的整備が整いつつある。

大きく分けて2つの問題点が挙げられるが、まずは「練習生(研修生)との契約」という問題がある。

韓国では、芸能事務所に所属している練習生のうち、約半分近くが無契約の状態であることが明らかになった。昨年、韓国の「文化体育観光部」が調査した芸能プロダクション関連会社(音楽事業中心)の「調査報告書」によると、練習生のうち46.2 %が無契約の状態であり、「専属契約」を締結していないことが分かったのだ。

なお、デビューまでのトレーニング期間は、歌手やアイドル志望の場合は平均15.38か月、役者志望の場合は平均15.37か月ほど所要し、このうち53.1 %が途中で脱落してしまうという。

練習生1人当たりの投資費用は月平均で約18万円ほどだった。最も多かったのは月平均10万円ほどで20.8 %、20万円ほどとの答えも19.2 %。

語学研修や整形手術援助を行っている大手プロダクションだと、この1人当たりの費用(経費)は30万〜50万円ほどに増えるという。

ここで問題になるのは、この半数近くの「無契約練習生」たちを守る法律がないことだ。事務所側が悪意を持ってしまえば、10代の練習生たちを使い捨ての「一時資源」にすることだって可能になる訳だ。

そこで「芸能プロダクション側の権力濫用」という2つ目の問題点が浮上する。

例えば、スポンサーへの接待強要やセクシーパフォーマンスの強要など。ただ、これらに関しては近年関連法律が制定された。

練習生やアーティストに売春(性売買)を強要した者は、10年以下の懲役又は1億ウォン(約1千万円)以下の罰金。売春行為を斡旋・勧誘・誘引した者も3年以下の懲役または3000万ウォン(約300万円)以下の罰金。中でも19歳未満の未成年芸能人に性行為をさせた者は、5年以上の懲役、という法律だ。

一方で、扇情的な表現行為を強要する行為(セクシーパフォーマンスの強要)については、未成年者であっても親権者または後見人の同意がある場合は例外となっているので、どこまで規制効果が期待できるかは未知数だ。しかし、K-POPブーム以前は、アイドルビジネスの要である育成やマネジメントの健全化を図るための法律は皆無に近かったのも事実。

これまでは、誰でもその気になれば法人としての「芸能プロダクション」を設立し経営することができたので、結果としては零細芸能事務所の乱立状態となり、現在は約1000社のうち、「演芸製作者協会」への登録会員は350社しかない。人気芸能人が所属する認知度の高い数社を除けば、ほとんど個人商店のような零細事務所ばかりだ。

文化体育観光部の資料「2013演芸企画会社調査報告書」によると、業界の約70 %が1億ウォン(約1千万円)未満の売上規模だという。逆に言うと、韓国で芸能事務所を安定して経営できている会社は数社しかないという結論になる。

「チンピラ型」や「詐欺師型」の芸能事務所がしばしトラブルを起こしていたが、彼らの「一発逆転欲」を規制する法律がなかった。

しかし、数年にわたる議論の末、昨年末、韓国の国会では「大衆文化芸術産業発展法」が可決された。この法律によって、芸能プロダクションの設立は、従来の「申告制」から「登録制」に変わることになる。

日本の芸能界でも「韓国の零細芸能事務所」には「質が悪い」ところがあることで有名だが、ついにこの法案が通過したことで、今後は4年以上の芸能業界経験者、または既存の業界関連法人でないと、芸能プロダクション(芸能事務所)を設立・経営することができなくなる。

違反した場合は、2年以下の懲役もしくは1000万ウォン(約100万円)以下の罰金刑が下されるという。早ければことしの7月から施行される見通しだ。

小さな一歩ではあるが、これで韓国の芸能界も着実に過渡期の試練を乗り越えているように思える。かつてのJ-POP界もそうであったように、K-POP界の法規制が業界を先進化するのも時間の問題かもしれない。

ただ、本来「規制」というのは、いつかは「想像力」と「創造力」の敵になるから、それだけが心配だ。

 

2014.02.06