未来を切り開く手段
スターの人気とは、移ろいやすいものである。
おごり高ぶれば、途端に足元をすくわれ、「まだ大丈夫」と安心すれば、すでに凋落が始まっている。過去、何人ものスターが、人気という魔物に惑わされたことか。
スターの宿命とはいえ、頂点に上り詰めれば、後は下りるしかない。永遠に頂点に居続けることはできないのだ。
それを早く知れば、次の頂点をめざそうとする。スターの世界にかぎれば、過去に固執しないことが、実は未来を切り開く手段になるのかもしれない。
そういう視点で、『テバク』の制作発表会を振り返れば、あの場で見せたチャン・グンソクの姿が実に多くのことを示していた。
彼は言った。
「『美男(イケメン)』のようなものを追求する俳優にかぎっていたのではないか、という疑念がいつもありました」
「今までのものを捨てて、(『テバク』が)新しいものを身につけられる作品になるのではないか、と思います」
過去と決別して新しい自分を築くためにチャレンジする、と受け取っていいのではないか。ニコリともしなかった彼の表情からは、「作品だけを見てほしい」というメッセージが込められていたように思える。
もう一つ気になったのは、ヨ・ジングをとても称賛していたことだ。10歳下の共演者を見守ってあげたい、という気持ちになるのは自然だが、あれほど称賛するというのは意外だった。
もしかしたら、チャン・グンソクはヨ・ジングの中に10年前の自分を見ていたのではないか。『ファン・ジニ』に出演して子役から大人の俳優へと成長していたあの頃を思い出していたのかも……。
そうなのだ。すでに10年の歳月が流れていた。その間にチャン・グンソクはラブコメで大ヒットを飛ばして絶大な人気を得るようになった。日本では東京ドームの公演を成功させて、まさに頂点に立ったと思わせるものがあった。
しかし、その頂点にとどまり続けることはできない。この2年間、チャン・グンソクもそのことを痛感していたに違いない。
その気持ちが、今年1月末に『テバク』主演が決まったときの言葉につながったのである。あのとき、チャン・グンソクは「臥薪嘗胆」と口にした。これは「たきぎの上に寝て、にがい肝をなめる」という生活を送ることを意味している。目的を達成するために、ひたすら辛い生活に耐えるということなのだ。
この言葉を発したチャン・グンソクの心情を察する。
彼がどれほど苦悩してきたことか。生半可な苦労では「臥薪嘗胆」という言葉が出てこない。『テバク』という作品を得て、なにがなんでも次なる頂点に達してみせる、という強い決意を感じ取ることができた。
その『テバク』は、韓国で3月28日から放送が始まり、第2話まで終わった。主人公テギルの赤ん坊時代の話なので、まだチャン・グンソクの出番はないのだが、第3話の予告編によると、いよいよチャン・グンソクが演じるテギルが本格的に登場する。あくまでもその映像で判断すると、彼の演技に吹っ切れたような躍動感があり、見る者をグイグイと引き込みそうだ。
期待は大いに高まる。
ドラマの主役は、その他大勢の俳優とはまったく違う。作品に力を与え、視聴者を束の間の別世界に導いていかなければならない。それだけの責任を持った「選ばれた俳優」なのである。
新しい俳優像を築こうとしているチャン・グンソクに、それだけのカリスマ性があるのかないのか。
ラブコメ以外のドラマで、視聴者の期待に応えることができるのかどうか。
ドラマのタイトルになっている“テバク”とは“大当たり”という意味である。チャン・グンソクも自分の俳優人生の“テバク”をめざして、4月4日放送の第3話から本当の勝負が始まる。
(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)
コラム提供:ロコレ
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