【コラム】「今回が最後の舞台になると思う」…イ・ソジン、バラエティーでは見せなかった涙と27年目の初挑戦

「公演のたびに涙が出た」

イ・ソジンがそう語った時、多くの人は少し意外に感じたかもしれない。

長年バラエティー番組で見せてきた彼の姿は、どちらかといえばクールで現実的だ。ぶっきらぼうな言葉を投げかけながらも、どこかユーモアがあり、感情を大きく表に出すタイプには見えない。

そんなイ・ソジンが、舞台のたびに涙を流したという。

その理由は、彼が27年目にして初めて挑んだ演劇「ワーニャ伯父さん」にあった。

デビューから四半世紀以上。

ドラマや映画で数多くの作品に出演し、「花よりおじいさん」「三食ごはん」などのバラエティーでも活躍してきたイ・ソジンだが、本格的な演劇への出演は今回が初めてだった。

しかも作品はアントン・チェーホフの代表作「ワーニャ伯父さん」。

世界中で愛される名作であり、韓国演劇界でも繰り返し上演されてきた古典だ。

華々しい挑戦に見えるが、本人は最初から前向きだったわけではない。

むしろ逆だった。

イ・ソジンは出演オファーを受けた当初、一度断ったという。

「最近はバラエティー中心で活動していて、演技から長く離れていたので負担が大きかった」

その言葉は率直だった。

さらに彼は開幕前、「とてもつらいです。後悔しています」「今回が最後の舞台になると思う」とまで語っている。

冗談交じりの発言だったが、その裏には初舞台ならではの重圧があった。

映像作品なら撮り直しができる。

NGを出しても編集で補うことができる。

しかし演劇は違う。

一度幕が上がれば途中で止めることはできない。

その日の観客の前で、最初から最後まで演じ切らなければならない。

しかもイ・ソジンは今回、全22公演をワンキャストで担当した。

代役もいない。

体調が悪くても、疲れていても、自分が舞台の中心に立ち続けなければならない。

イ・ソジンが「毎日規則的に繰り返される生活が一番つらかった」と語ったのも無理はない。

さらに「NGなしに全部やらなければならない負担も大きかった」と率直に打ち明けた。

27年間俳優として活動してきた彼でさえ、舞台はまったく別の世界だったのである。

興味深いのは、そんなイ・ソジンが演じたワーニャという人物との共通点だ。

ワーニャは人生の大半を他人のために生きてきた男だ。

家族を支え、自分の夢や希望を後回しにしてきた。

しかし歳を重ねたある日、ふと立ち止まり、自分の人生を振り返る。

「もし違う人生を歩んでいたら」

「もっと別の選択があったのではないか」

そんな後悔が押し寄せる。

130年以上前に書かれた作品でありながら、現代人にも強く響くのはそのためだ。

実際、イ・ソジン自身も「中年になったワーニャと共通点が多い」と語っている。

人との関係。

思い通りにならない人生。

年齢を重ねたからこそ見えてくる現実。

ワーニャが抱える苦悩は、決して特別なものではない。

むしろ多くの人が心のどこかで抱えている感情そのものだ。

そして今回のキャスティングが興味深いのは、演出家ソン・サンギュがイ・ソジンの“テレビで見せてきた姿”に注目したことだった。

ソン演出家は、イ・ソジンについて「文句を言いながらも責任感が強い人物」と評価した。

この言葉を聞いて、多くの視聴者は思わずうなずくのではないだろうか。

「花よりおじいさん」でも「三食ごはん」でも、イ・ソジンはよく不満を口にする。

面倒だと言う。

文句も言う。

しかし最後には必ずやり遂げる。

誰よりも責任感を持って周囲を支える。

ワーニャもまた同じだった。

人生への不満を口にしながらも、家族を見捨てることはできない。

投げ出したいと思いながらも、自分の役割を最後まで背負い続ける。

テレビで見てきたイ・ソジンと舞台上のワーニャが重なって見える理由は、そこにあるのだろう。

そして、この作品の核心はラストシーンにある。

すべてが終わった後、姪のソーニャは疲れ切ったワーニャに静かに語りかける。

「私たちは休めるはず。穏やかに休めるはずだから」

人生に劇的な逆転はない。

失った時間は戻らない。

叶わなかった夢も取り戻せない。

それでも人は生きていかなければならない。

この作品は残酷なほど現実的だ。

しかし同時に、どこまでも優しい。

他人と比べなくてもいい。

後悔してもいい。

失敗した人生だったとしても、それだけで価値がなくなるわけではない。

そんな静かな慰めが作品全体を包んでいる。

イ・ソジンは「公演のたびに涙が出た」と振り返った。

幕が下りた後も感情を整理する時間が必要だったという。

普段のバラエティーで見せる姿とは異なる一面だった。

それだけワーニャという人物が、彼自身の人生や感情と深く重なっていたのだろう。

27年目にして初めて立った舞台。

それは単なる新しい挑戦ではなかった。

俳優イ・ソジンが、自分自身と向き合う時間でもあった。

そして観客にとってもまた、自らの人生を振り返る時間になったはずだ。

「今回が最後の舞台になると思う」

そう語った彼の言葉が本音だったのか、それとも照れ隠しだったのかは分からない。

ただ一つ確かなのは、「ワーニャ伯父さん」が俳優イ・ソジンの新たな魅力を引き出し、多くの観客の心に深い余韻を残したということだ。

WOW!Korea提供

2026.05.31