暗闇の中に浮かぶ一筋の光。その光の中から、デビュー20周年を迎えたキム・ボムレの迫力ある重低音ボイスが響きわたった。10月10日(土)東京・なかのZERO小ホールにて開催された「キム・ボムレ 20th Anniversary Celebration」は、ミュージカル「VAMPIRE」のナンバー「憎悪と憤り」から幕を開けた。
「ウェルテルの恋」のアルベルト役や「ノートルダム・ド・パリ」のカジモド役などで、独自のカリスマ性を発揮し、韓国ミュージカル界で存在感を示してきたキム・ボムレ。日本でも「三銃士」「ジャック・ザ・リッパー」への出演で多くのファンを獲得。デビュー20周年を迎えて日本のファンへの感謝の気持ちを込めた今回の公演には、日本のみならず、韓国からも熱烈なファンが駆けつけた。
「今日は千百万人くらい集まっていただいたような気がします(笑)。皆さんお越しいただきありがとうございます」と冗談まじりの明るいあいさつからスタート。「こんなにたくさんの方が来ていただいて本当にうれしいです。今日はリラックスした雰囲気の中でコンサートができればと思います。最後まで楽しんでいただきたい」と語り、自身が好きな曲を中心に、KPOPやファンのリクエストの中からも選んだという今回のセットリストに自信をのぞかせた。
ピアノ、バイオリン、ドラム&パーカッションのバンドメンバーが登場すると、大学の後輩だというピアニストがキム・ボムレに敬礼する姿に苦笑い。生バンドの演奏で、この日にぴったりな「10月のある素敵な日」をファン一人ひとりの目を見るように優しく歌いあげた。
「次の曲は皆さんに力を貸してほしい」というキム・ボムレ。事故で重傷を負ってしまった友人を励ますために「この場を借りて気持ちを込めて歌い、ファンの皆さんが撮影した映像を彼に届けたい」という。キム・ボムレの優しい願いをファンも快諾すると、涙で最後までリハーサルできなかった「ガチョウの夢」を熱唱。涙をこらえながら歌うキム・ボムレの姿に目頭を押さえるファンも見られた。心に響く彼の歌声をファンはカメラ越しに静かに見守り、キム・ボムレは歌い終わると「大きな力になると思います。ご協力いただいてありがとうございます」と深く頭を下げた。
数々のミュージカルに出演しているキム・ボムレは「実は『レ・ミゼラブル』のオーディションには5回も行って、選ばれたとも言われていたんです」と打ち明けた。「でもイギリスに映像を送ったらNGが出てしまって…。ジャベール役は本当にやりたかったんですけど、気分が悪くなって観なかったです(笑)」と秘話を語った。今回のコンサートで選曲した理由について問われると「私の方がもっと上手くできるということを見せたくて」と笑い、同ミュージカルから「stars」「empty chairs at empty tables」を熱唱し、その言葉を見ごとに証明した。
現在MBC月火ドラマ「華麗な誘惑」への出演や、再演となるミュージカル「風と共に去りぬ」も稽古中で多忙を極めるキム・ボムレ。同ミュージカルからは「彼女」、「君を乗せて行った風」2曲が披露。ペットボトルの水を酒に見立てて飲みながら、客席に降りてファンの頭を撫でたり絡んだり、コミカルな演技と歌でファンを沸かせた。
ミュージカルナンバーだけでなくKPOPのカバーでもファンを魅了。ヒップホップからJazzまでなんでも聴くというキム・ボムレは、幅広いレパートリーの中からボビー・キムの「愛…そいつ」やドラマ「星から来たあなた」の主題歌Lynの「My Destiny」でファンをうっとりさせた。Lynの歌について「私の声が低いので、男性歌手の曲は合わないんです。逆に女性歌手の方がキーが合って歌いやすい。あと私の中にある“女性”が(笑)」と女性らしいしぐさで客席の笑いを誘った。
来生たかおの「Goodbye Day」や、高校時代から好きだったという安全地帯の「Friend」でもファンの耳を釘付けに。日本語で披露された「Friend」では、切ない歌詞とキム・ボムレの圧倒的な歌唱力に、歌い終わると大きな拍手が沸き起こったが、「一生懸命日本語を覚えてきて念のためにプロンプターを用意してもらったけど、間違えてしまった」と悔しそうな表情を浮かべた。
来場したファンのためにプレゼントが用意され、急遽クイズコーナーも設けられた。「『My Destiny』が主題歌だったドラマは?」などのクイズが出されると、正解したファンにはキム・ボムレの顔写真とサイン入のモバイルバッテリーが贈られた。
「踊ろうエスメラルダ」(ノートルダム・ド・パリ)、「This is the moment」(ジキルとハイド)など珠玉のミュージカルナンバーも披露された。代表作の一つでもある「ノートルダム・ド・パリ」では主演賞を受賞したキム・ボムレ。しかし意外にも20年を振り返って印象に残っているのは「身体を使って体力的に辛かった『ポーギーとベス』」だと明かした。圧巻の「This is the moment」が披露された後でアンコールに登場したキム・ボムレは、「本当に心からありがとうございます。アンコール曲は僕の気持ちを表した曲。“同じ空の下 違う場所でも どうか私を忘れないで”という歌詞があります。次に会うときまでどうかお元気で。私のことを忘れないでください」とあいさつし、ペク・チヨンの「忘れないで」を熱唱。時おり空をあおぐように見上げ、ファンの心に歌を届けた。
さらに20周年を記念してダブルアンコールにも応じた。再び出会うことを願ってイ・ソンヒの「縁」を準備したキム・ボムレ。「歴史、政治、すべてを忘れることはできないけれど、韓国からもこうしてファンが来てくれて、ここに日本のファンもたくさん来てくださっています。ミュージカルや芸術、文化を通して一つになれることにとても感謝しています。私たちが日韓の力になれるのではないかと思います」と語り、ファンと再び会えることを信じて最後の曲「縁」を歌うと、キム・ボムレの20周年を記念したコンサートは温かい雰囲気で幕を閉じた。
重低音ボイスが聴く人を癒すキム・ボムレ。心の奥、魂に響く歌声でこれからも日韓の架け橋となり、多くの人を勇気づけるに違いない。
写真提供:(株)ゼニスメディアコンテンツジャパン
取材:Korepo(KOREAREPORT INC)