今ではアジアのみならず世界中の人々を魅了するK-POPアーティストたち。なぜ、私たちはこんなにも夢中になってしまうのか? 時代を動かしてきたK-POP界の戦略性とは?
その謎を解明し、K-POPの魅力をさらに深掘りすべく、評論家・古家正亨氏に直撃インタビュー! 90年代から韓国の音楽シーンを追い、数々のアーティストと交流を深めてきた古家氏に、K-POPの斬新さや変化、これからの展望までたっぷり語っていただきました。
■メロディーと歌い方から感じられる独特な悲哀が、とにかく僕の感情を刺激した
僕がK-POPにハマったきっかけは、その曲からほとばしるパッションでした。もちろん、日本を含め他の国の音楽に情熱がないとは言いませんが、初めてK-POPを聴いた時の胸騒ぎは、何とも言えないものでした。
初めて聴いたのは90年代。とあるバラード曲だったのですが、言葉がわからない状態で聴いても、そのメロディーと歌い方から感じられる独特な悲哀が、とにかく僕の感情を刺激したんです。それから一気に韓国音楽に対しての興味関心が湧き、韓国へ留学。そして今では、その魅力を伝える側になっています。
今は、K-POPアイドルを介して、韓国の音楽と出会っている方が多いのではないでしょうか。K-POPにハマる人にその理由やきっかけについて尋ねたことがあったのですが、その答えは一様に「歌が上手い」「ダンス・パフォーマンスのクオリティが高い」「格好いい」「きれい」といった、意外にも抽象的なものが多かったんです。今挙がったような理由も魅力の1つであることは間違いありませんが、僕が学生の頃にFMラジオから音楽に夢中になった時代と違い、洋楽の勢いが衰えてしまったこともK-POPの普及の背景にあるような気がします。
同時に、メディアが多様化し、余暇の過ごし方も大きく変わりつつある中でK-POP界が進めた、映像を絡めたメディア展開が時代を大きく捕らえました。動画投稿サイトで“観て楽しむ音楽”という、新しい音楽の聴き方を世界中どこよりも早く聴取者に提案できたことが、多くの人々を魅了するきっかけになっていると思います。それはまるで、第2のMTV時代到来をも感じさせるものでした。
その“観て楽しむ”という部分が、若いスマホ世代や時代性にピッタリマッチしてさらに広まっていったのだと思います。日本では今も一部のレコード会社でアーティストのMV(ミュージックビデオ)のフルヴァージョンを動画投稿サイトで解禁していないケースがあるほど、著作権をはじめとするアーティストなどの権利保護に力を置いていますが、韓国ではまずそれはありません。むしろCD販売や音源配信よりも先にMVを解禁することも少なくありません。国によって音楽のビジネスモデルに違いはありますが、韓国ではあくまで音源はプロモーション・ツールの1つであり、音源をベースに、その先のアーティストプロモーションやライブなどのビジネスを見据えている。日本のようにCDや音源そのもので何かを回収しようという考えがそもそもないのです。そういった韓国的な音楽の楽しみ方が、何でもスマホで完結してしまう若い世代の皆さんに適合していたのだと思います。
また、良し悪しはありますが、K-POPスター達のプライベート動画などを、SNSを介して定期的に配信・更新してくれることもあり、とにかく観たいと思わせるコンテンツが豊富。しかも、ほとんどが無料です。こういったファン・サービスが、K-POPスターをより身近に感じさせてくれることも若い世代の心に刺さったのではないでしょうか。あとは韓国ドラマ同様、コロナ禍で外出できなかった時間が長く、その間にハマってしまったという方も多いですよね。
■K-POPはその時代毎に、音楽性も含めて変化を遂げてきた
よくK-POPアイドル第2世代に定義されるKARAや少女時代が日本で受け入れられ、社会現象になったのが2009年~2010年。この頃は、各芸能事務所が時間とお金をかけて練習生たちを数年にわたりトレーニングし、事務所やプロデューサーの色を持ち、フックソングと呼ばれる耳に残るキャッチーなフレーズを盛り込み、差別化のために振りに名前を付けて普及させるなど、基本的に事務所主導のK-POPアイドルたちが多く活躍しました。当時、その完成された歌やパフォーマンスがK-POPの魅力として日本ではよく語られていました。
そしてその後、TWICEなどのいわゆるK-POPアイドル第3世代に定義されるアーティストたちが、動画投稿サイトやSNSを活用したプロモーションを展開。さらに海外の作曲家の楽曲を重用する傾向が強まったことに加え、歌詞もフックにこだわらず、強いメッセージ性を取り入れることで、音楽的な共感を生むようなスターが数多く誕生しました。そしてBLACKPINKのような世界的な評価を得るアーティストが増え、それまではK-POPの海外収益のほとんどを占めていた日本のシェアが欧米に徐々に奪われるという動きが生まれます。
その第3世代の要素を持ちながら、さらに洗練されたのが、ENHYPENやITZY、aespaなどのK-POPアイドル第4世代。彼ら・彼女たちの大きな特徴は、その多くがオーディション番組やサバイバル番組出身者であること。だからこそ、ダンス・パフォーマンスにより磨きがかかり、洗練度が増しました。
そこから2年半のコロナ禍を経て、リアル公演の開催がようやく可能になり、日本公演に対する高まりがこれまで以上であることなど、K-POPはその時代毎に、音楽性も含めて変化を遂げてきたのです。
そして、今韓国の音楽界が力を入れているのが、プラットフォームやサービス、ノウハウの輸出です。日本でも「Produce 101 JAPAN」が放送されたように、K-POP関連のオーディション番組のノウハウを世界各国に輸出しています。そして、韓国的なトレーニングを受けさせた各国のドメスティック・スターを誕生させ、そこから成功報酬を得るというビジネスモデルです。つまり、これまでは韓国で訓練を受けてデビューさせたスター達を海外で活動させるというスタイルが一般的でしたが、このビジネスモデルが永遠に続くものではないことを韓国の業界関係者も理解していて、その先を見据えたビジネスモデルへの転換を急いでいるんです。
さらにコロナ禍を経て、音楽のリアル指向――直接聴いて楽しむ人が増えたこともあり、これまでのショーのように多少口パクでもダンス・パフォーマンスが美しければいいという風潮に変化が訪れました。生歌や、生バンドを従えることなど、ライブやコンサートに求められるものにも変化が出てきています。来年になればK-POPアイドル第5世代と呼ばれる人が出てくると思いますが、彼らに求められるのは、そういったライブ感覚なのではないでしょうか。
■ファンの一喜一憂は、イベントやライブにおいてスター達の大きな力になる
よく「どうして古家さんはK-POPスターから愛されるの?」という質問をされるので、自分自身で気を付けていることをいくつか紹介したいと思います。
来日するK-POPスターのイベントでMCをする際、まず第一に気を付けていることは、日本であってもK-POPスター達が自分たちのホームグラウンドにいるような雰囲気を作ることです。
僕がMCをする際は基本的に通訳さんが入ることが多いのですが、僕自身は韓国語がわかるので、通訳は専門家にお任せする一方、僕は彼らが話すタイミングでそれを理解し、言葉のキャッチボールを途切れさせないようにしています。そうすることでK-POPスター達に安心感を感じてほしいのです。近いとはいえ、彼らからすれば日本も海外。当然最初はすごく緊張しているので、それをほぐしてあげなければなりません。その点においてこの1つめの作業はとても重要です。
第二は、事前準備を怠らないこと。とにかく事前にMVや音源はもちろん、各メンバーのSNSなどをチェックして、最近何があったのか、どんなことをしていたのかをリサーチしておいて、それを本編中にフリートークのネタとして準備しておきます。これを喜んでくれるスターが本当に多いんですよね。「自分のことをそこまで知ってくれているんだ」っていう安心感があるそうです。
第三は、僕自身がファンの立場に立つということ。もし自分がファンだったら、今何をしてほしいだろうということを常に考えて行動しています。
イベントは、アーティストのパフォーマンスが50%を占めるとすれば、残りの半分はファンの皆さんの存在で決まります。ファンの一喜一憂は、イベントやライブにおいて、スター達の大きな力になります。それをどのように促して引き出すかは、僕のようなMCの仕事。ただ盛り上げるだけでなく、事前にファンの方のSNSも見て、どんなことを訊いてほしいのか、どんな姿を観たいのか、調べたうえでステージに立っているんです。
ほかにも細かく上げればまだまだありますが、いつもこの3つは気を付けてマイクを持っていますね。
時代ごとに変化してきた歴史、さらにこれからの注目ポイントなどがわかり、ますますK-POPから目を離せなくなったのではないでしょうか。
そんな歴史を網羅しつつ、これからもどんどん拡がっていくdTVのK-POPラインナップを、ぜひチェックしてみてください。
<古家正亨氏プロフィール>
1974年北海道生まれ。 ラジオDJ、テレビVJ、イベントMC。
20年以上に渡り、韓流ドラマ・映画やK-POPの魅力をラジオやテレビ、書籍やWeb等のメディアを通じて紹介。 現在もテレビやラジオなど7つのレギュラー番組でMCを担当。
韓流スターやK-POPアーティストのイベントや韓国関連イベントでは、年間200回余りの司会・進行を務めている。
Twitter ⇒furuyamasayuki0
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