世界56カ国で公開も決定している韓国ノワール・アクションの傑作『ただ悪より救いたまえ』ホン・
・本作の見どころは3ヵ国をまたにかけたグローバルな殺し屋同士の対決アクションはもちろん、人身売買・臓器売買などの社会問題も注目すべきところですが、着想はどこから得たのでしょうか。
いつだったか怪談のような話を聞いたことがありました。
若い共働きの夫婦が子どもの面倒を見る家政婦と一緒に住んでいて、ある日その家政婦と子どもが行方不明になり、噂を頼りに探したところ外国に潜伏していると。子どもを見つけるために夫婦は一心不乱に異国へ向かうのですが、家政婦が児童臓器売買に関係しているという事実を知ることになります。その話を聞いて、本当に恐ろしいと思いました。この話が怪談なのか事実なのかは分かりませんが、とてもリアルに感じたんです。その時からこのシナリオを書きたいと思いました。
・本作の舞台を東京、仁川、バンコクにした理由はなんでしょうか?
インナム、そしてレイというキャラクターは私たちが日常で出会うことがなかなか難しい存在だと思います。こうした人物を現実の空間に登場させてしまうと、作為的に見えないかと心配しました。それで、最大限に私たちがよくは知らない異国の空間に設定したんです。様々な都市の中でふさわしい場所を構想していたところ、この3つの都市を思いつきました。それぞれまったく異なる雰囲気を漂わせ、はっきりとした色を持っている都市です。
・「新しき世界」以来のファン・ジョンミン、イ・ジョンジェの共演となりますが2人をキャスティングした理由は何でしょうか。
まず最初にファン・ジョンミンさんをキャスティングしました。その次にイ・ジョンジェさんをキャスティングしました。インナムという役が最も似合う俳優を考えていたところ、制作会社とファン・ジョンミンさんにまずシナリオを送ってみようと思ってお送りしました。意外なことにすぐに返事があって早く決定しました。イ・ジョンジェさんについても同じような過程を経てキャスティングすることができました。インナムを演じるファン・ジョンミンさんは生きる意味を見失った無力な中年の男性を一番うまく表現できる俳優ではないかと思いました。また、イ・ジョンジェさんはレイの蛇のように狡猾で執拗までに追いかけるという執着心を表情で最もうまく表現できる俳優だと思います。
・また、日本でも「イカゲーム」によって空前のイ・ジョンジェブームが巻き起こっていますが、イ・ジョンジェとの仕事はどうだったか、また彼の意外な一面などあれば教えてください。
イ・ジョンジェさんはメディアに登場する姿と実際とほとんど同じです。紳士的で礼儀正しくて、常にそれが体に染みついているんです。私たちの映画ではすごく残忍で恐ろしい人物として登場しますが、撮影現場では静かに現場に来て自分の役割をすべて果たして静かに帰られる方でした。撮影現場では準備したことをすべて発揮するために集中されていましたし、プリプロダクションの段階でもたくさんのアイデアを出してくださいました。
・インナムとレイの息の合った対決、執拗に殺し合う姿は一種のブロマンスのようなものを感じました。2人の関係において工夫したポイントはありますか?
生きる目的とでも言いましょうか?無力で人生の終わりを準備していたインナムは自分の子どもという動機が付与されて、命をかけて生きようとします。レイも同じ意図です。兄の復讐はきっかけに過ぎず、自分のすべてをかけてターゲットであるインナムを盲目的に追いかけ、すがります。
・パク・ジョンミン演じるユイは本作における“救世主”のような役どころですが、ドラァグクイーン・トランスジェンダーにした理由は何でしょうか。
ユイはバンコクに到着したインナムを助けるとても重要な助っ人です。ユイという人物を作り上げるとき、バンコクという背景をしっかり込めないといけないと思いました。私たちがバンコクと聞いて連想するものの一つにトランスジェンダーの人々のショーがあると思います。
勿論、観光客の目線で見た場合です。そしてインナムという男らしい男性と女性性を持ったトランスジェンダーのイメージが合わさったら面白いシナジーが生まれると思ったのです。
・本作はアクションシーンも大きな見どころの一つだと思いますが、そんなアクションシーンで一番こだわった部分はなんですか?
活劇よりもアクションの導線がみえるリアルなアクションと打撃感を強調しました。そして何よりも映画の全体的なトーンとアクションのトーンが逸脱しないことをのぞみました。
・ホン・ギョンピョ撮影監督が、「この作品は前作『パラサイト 半地下の家族』とは全く違い動きも多くロケーションも多い映画だったので新たな挑戦だった」とコメントしておりましたが、改めて彼との仕事はいかがでしたか?
瞬間的に人物の表情をつかむことにとても動物的な感覚を持っている撮影監督です。海外ロケに多くの製作費がかかった作品だったので、ホン・ギョンピョ撮影監督の経験とノウハウが大きな役割を果たしてくれました。
・全編がざらついた感じの映像で、緊迫感が凄かったですが、全編を通して最もこだわった部分はなんでしょうか?
アクションとサスペンス部分です。観客の皆さんに映画としての魅力を最大限に浮き彫りにするのが目的でした。
・ユミン役のパク・ソイは、ほぼしゃべらない子役には大変な演技だったかと思います。彼女はいかがでしたでしょうか?
パク・ソイちゃんはオーディションで選抜しました。とても幼い子なので、激しいシーンの中でうまく演技ができるか心配もありました。特にセリフなく表情で感情を伝えないといけなかったので。しかし、子どもとは思えない表情の演技でとても立派に表現してくれました。
・最後に、これから作品を見る日本のファンにメッセージをお願いします。
コロナによって韓国も日本もつらい時期を過ごしていると思います。こんな息苦しい時期ですが、『ただ悪より救いたまえ』を劇場でご覧頂き、気分転換してもらえたらと思います。公開時期に直接日本には行けないですが、早くこのパンデミックが収束し、日本の観客の皆さんにも直接お会いできる時が来ることを願っています。どうか皆さん健康にお過ごしください。
『ただ悪より救いたまえ』
12月24日(金)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー
◆配給:ツイン
◆コピーライト
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監督/脚本:ホン・ウォンチャン 『チェイサー』『哀しき獣』(脚本)
出演:ファン・ジョンミン『ベテラン』、イ・ジョンジェ『新しき世界』、パク・ジョンミン『それだけが、僕の世界』
2020年/韓国/韓国語ほか/シネスコ/カラー/108分 提供:ツイン、Hulu 配給:ツイン 宣伝:スキップ PG-12
公式サイト:tadaaku.com