第7回 才能と容姿に恵まれた美女ファン・ジニ
韓国の国語の教科書にも詩が掲載されるほど有名な女流詩人だったファン・ジニ。ドラマではハ・ジウォンが彼女を演じていた。詳しい経歴などはわからないが、実際にはどのような人物だったのだろうか。
多くの男性から愛された女性
ファン・ジニは、朝鮮王朝11代王・中宗(チュンジョン)が統治する時代に生きていた人物である。彼女は女流詩人として有名で、詩歌や舞踊などの才能を持つ女性だった。さらに、すごい美女であったため、ファン・ジニに一目ぼれする男性が後を絶たなかった。その中で、こんな不思議な話が逸話として伝えられている。
ある日、ファン・ジニは自分の家の前が何か騒がしいことに気付いた。気になって外に出てみると、若者の棺を乗せた台車が運ばれていくところだった。その若者は、ファン・ジニに恋焦がれていた末に病気で亡くなってしまったのである。
その台車がファン・ジニの家の前を通り過ぎようとしたとき、不思議なことが起こった。棺が突然動かなくなってしまう。その後、力のある男たちが何人集まっても動かすことはできなかった。事情を理解したファン・ジニが自分が着ていた上着を棺に掛けると、それまでテコでも動かなかった棺を乗せた台車が動き出したのである。
亡くなった若者は、死んだ後もファン・ジニのことを諦められなかったのだろう。その想いが不思議な出来事を起こしたのかもしれない。
もう1つのエピソード
韓国ドラマ『ファン・ジニ』には史実のエピソードが多く使われている。先ほどの棺が動かなくなった逸話のほかにもう1つ、風流人として有名だった碧渓守(ピョク・ケス)とのエピソードを紹介しよう。
「ファン・ジニは風流な人にしか会わない」と聞いていた碧渓守は、月夜にコムンゴ(琴の一種)を弾けばファン・ジニが現れるので、そのときに関心のないふりをして馬で駆け去るという計画を練った。
ファン・ジニが現れたことに気付いた碧渓守が急いで馬にまたがると、世にも美しい声が聞こえてきた。
「青山を巡る碧渓守よ 疾き流れを誇るなかれ ひとたび大海に至れば 再び見えること難し 明月が空と山を満たす 今宵をともに過ごさん」
それを聞いた碧渓守はウットリしすぎて落馬してしまう。
また、ファン・ジニのような美しい女性に「今宵を共に過ごそう」と、突然言われたら驚くのも当然である。
碧渓守も、まさかそう言われるとは思っていなかった。結果的に、落馬して恥をかくことになったのだ。ファン・ジニのほうが一枚上手だった。
謎だらけの人生
朝鮮王朝時代には厳しい身分制度があった。その身分の中で、妓生(キーセン)は最下層の賤民(チョンミン)に位置づけられていた。
棺を乗せた台車が動かなくなったときの逸話で、ドラマの中ではすでに妓生だったという設定だが、伝えられた話ではまだファン・ジニは一般の女性だった。
自分の家の前で棺が動かなくなったという出来事に強いショックを受けたファン・ジニは、「もうこのようなことを二度と起こしてはならない」と思い、母親の制止の声も聞かずに妓生になってしまう。
ファン・ジニは、美貌と才能を兼ね備えていたのだから、本来ならもっと明るい人生を歩んでいたかもしれない。
彼女の場合は、生没年もよくわかっていない。
謎の多すぎる人生なのだ。ドラマ『ファン・ジニ』では、妓生としての立場が強調され過ぎていたが、実際はどういう女性だったのか。史料がほとんど残っていないのが惜しまれる。
文=康 大地(コウ ダイチ)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/