たった15秒。
その15秒ですら、最後まで見てもらうことが難しい時代になった。
動画配信サービスでは広告をスキップするのが当たり前。追加料金を支払って広告そのものを表示させない人も少なくない。
ところが韓国では今、「広告なのに最後まで見てしまう」「広告なのに何度も見返してしまう」という異例の現象が起きている。
その主役となったのは、新作ドラマでも人気アイドルでもない。
17年前の「善徳女王」、16年前の韓国時代劇「推奴~チュノ~」、そして映画「新しき世界」――。一世を風靡した作品のキャラクターたちが、時を超えて“広告”の世界へ帰ってきたのだ。
■なぜ韓国では「広告」が最後まで見られるのか
ドラマ「善徳女王」でトンマンを演じたイ・ヨウォンは17年ぶりに同じ役へ。チャン・ヒョクも韓国時代劇「推奴~チュノ~」のテギルとして16年ぶりに復活した。
衣装や髪形、表情、セリフ回し、演出まで当時を忠実に再現しながら、最後だけ商品紹介へとつながる構成は、多くの視聴者に「懐かしい」と「面白い」を同時に届けた。
かつて涙し、笑い、夢中になったドラマの世界が突然広告として始まる――。
その予想外の展開こそが、視聴者の指を止める最大の武器となった。
近年、韓国では放送終了から10年以上が経ったドラマや映画が、SNSやショート動画をきっかけに再び脚光を浴びるケースが増えている。制作者たちは、そうした作品が持つ“コンテンツ資産”に着目し、広告へ応用し始めたのだ。

■「広告」ではなく「コンテンツ」を作る時代
その代表例が韓国大手ECサイト「Gマーケット」だ。
今年5月、Gマーケットは韓国時代劇「推奴~チュノ~」と映画「新しき世界」の名場面を大胆にパロディー化した広告キャンペーンを公開した。
「推奴~チュノ~」でチャン・ヒョクが残した名ゼリフ『どれほど好きなんだ』は、「卵がたくさんだからいい」「洗濯物がよく乾く」といった言葉遊びへと巧みに変化。真剣な表情を崩さないまま次々と商品を紹介する姿が、大きな笑いを誘った。
一方、「新しき世界」で強烈な存在感を放ったパク・ソンウンも、劇中の名場面をセルフパロディー化。重厚なノワールの雰囲気を保ちながら特価商品を紹介するという絶妙な“ギャップ”が視聴者の心をつかんだ。
SNSには、「どれだけ成功したいんだ(笑)」「いくら出演料をもらったの?」「広告なのに最後まで見てしまった」といったコメントが相次ぎ、約2000件もの反応が寄せられた。
さらに、視聴者自らがパロディー動画や二次創作コンテンツを制作するなど、広告そのものが一つのエンターテインメントとして拡散されていった。
その反響は数字にも表れている。
Gマーケット公式YouTubeで公開されたキャンペーン動画20本の累計再生回数は約5600万回を突破。キャンペーン期間中のサイト訪問者数は前年イベントの約2倍に増加し、対象商品の1日平均取引額は通常時の約4倍、主力企画「1000万ヒットディール」は約7.6倍という驚異的な伸びを記録した。
広告の目的は、本来「商品を売ること」だ。
しかし今回、多くの人が楽しみにしていたのは商品の説明ではなく、「次はどんな作品が復活するのか」という新たなエンターテインメントだった。
つまりGマーケットが売ったのは商品だけではない。
視聴者が思わず最後まで見てしまい、さらに誰かへ共有したくなる――。
「15秒のエンターテインメント」そのものを生み出したのである。

■なぜ16年前の「推奴~チュノ~」は今も通用するのか
Gマーケットの広告がここまで大きな反響を呼んだ理由は、単に「懐かしいドラマ」をよみがえらせたからではない。彼らが狙ったのは、視聴者の予想を心地よく裏切る"反転"だった。
企画を手掛けたGマーケットのブランドマーケティングチーム、ソ・ジュンソク氏によると、上半期最大のショッピングイベント「ビッグスマイルデー」を印象づけるため、「最も強力な広告」を作りたいという思いから企画がスタートしたという。そのキーワードとなったのが、「真面目さ」と「ユーモア」のギャップだった。
ソ・ジュンソク氏は、「強烈なカリスマで知られる俳優が、代表作の名場面をユーモラスにアレンジすることで、視聴者が最後まで広告を見て、その後もショート動画などで自発的に共有したくなるよう設計しました」と説明する。
重厚なアクション俳優として知られるチャン・ヒョクや、圧倒的な存在感を放つパク・ソンウンだからこそ、コミカルな演出との落差が際立つ。作品の世界観を知る人ほど、その"裏切り"を楽しみ、思わず最後まで見届けてしまうのである。
さらに、「推奴~チュノ~」や「新しき世界」が、放送・公開から年月が過ぎた今もなお、SNSで名場面や名ゼリフが繰り返し引用される"コンテンツ資産"となっていたことも成功を後押しした。実際、チャン・ヒョクは広告の反響を受け、キャンペーンでは異例となる契約延長が決定。広告そのものが続編を期待される人気コンテンツへと成長した。
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