ろう者の父シャオマー（小馬）とコーダ（耳が聞こえない、または聞こえにくい親を持つ聴者の子ども）の娘ムームー（木木）。支え合って生きる父娘のささやかな日々は、5年前に出ていった母の来訪によって軋み始める。ふたりの愛は、最大の試練を乗り越えられるのか――。主人公のシャオマーに扮するのは、世界的な人気を博すアイドルグループ「EXO」のメンバー“レイ”としても活躍するチャン・イーシン（张艺兴）。ただ幼い娘の幸せだけを願い必死に駆けずり回るシングルファーザーを文字通り全身全霊で熱演し、観る者の心を激しく揺さぶる。シャオマーの愛情を一身に受けるムームーに抜てきされたのは、これが映画デビューとなる新星リー・ルオアン（李珞桉）。監督は、中国で社会現象を呼び起こしたヒット作『あなたがここにいてほしい』のシャー・モー（沙漠）。米アカデミー賞作品賞受賞作『コーダ あいのうた』、吉沢亮が主演した『ぼくが生きてる、ふたつの世界』と同じく、当事者であるろう者の人々が俳優として多数参加している。
このメイキング映像では、手話を交えた映画ならではの撮影の裏側をたっぷり捉えながら、シャオマーとムームーの父娘としての関係性やそれを演じたイーシンとルオアンそれぞれが俳優として役柄に向き合う様子などが、シャー・モー監督の言葉とともに明かされていく。
映画『愛がきこえる』メイキング映像
まず、シャオマーとムームーについて、監督は「大人びた娘と幼びた父。ドラマ性とユーモアがありますよね」とその関係性を表現。ステレオタイプの親子像とは一線を画す関係性とも言えるが、演じたイーシンとルオアンについて「しっかりした子供と少年のような大人です」と評する。この映像でも、ふたりが一緒にはしゃぎ回るような微笑ましい光景を収めている。監督によると、ふたりを近づけたのはダンスだったようで、「ふたりとも、よく一緒にダンスをしていました。作品の中には辛い場面や重たい空気も多いのですが、ふたりは撮影が終わればすぐに気持ちを切り替えられるタイプです。チャン・イーシンさんは、時にルオアンさんを慰めたり、励ましたりしていました。ルオアンさんはもともとネット上で人気のあった女の子なんですが、観客から支持された動画の多くはチャン・イーシンさんのダンスをまねた映像でした。まさに“ダンスを通じて友達になった”という感じでしたね」と撮影時の裏話を教えてくれた。
続いて、イーシンの撮影現場での様子が垣間見られる。映像では、“涙ぐんでもいいけど泣いてはいない感じ”と伝え、これから臨むシーンの演技の方向性を粘り強く監督と確認する姿を捉えている。監督は、「シャオマーは自分が決めたことを絶対にやり遂げる人です。イーシンのこだわる性格はこの役にぴったりで、シャオマーはイーシンそのものなんです」と説明する。さらに、本作の手話指導を行ったスタッフによると、イーシンと監督は撮影前に一緒にろう者のコミュニティーや麻雀店へ行くなど交流をしたというが、こうしたことはイーシン自身が強く望んだことだったという。映像には映画の制作スタッフだけでなく、多くのろう者たちと手話で会話をしたり教わったりする姿も収めている。映画にも出演しているろう者から”撮影後も手話を覚えてる？忘れちゃう？”と問われたイーシンが”忘れないよ、覚えてる”と手話で答える様子は印象的だ。
また、ルオアンの撮影現場の様子からは、圧倒的な存在感と豊かな感情表現をもって演じる姿に、メイキング映像からだけでも観る者の涙を誘う。監督は「彼女こそ私が求めていたムームーだったんです」と明かす。その魅力について「愛らしさと大人の雰囲気を兼ね備えています。セリフと手話を覚え演技をするのは大人の俳優でも難しい挑戦なのに、うまく演じてくれました」と紹介。監督は、「ルオアンにムームーという役を演じてもらうというよりも、ルオアンはムームーで、ムームーはルオアンであることが大事なんです。6歳（撮影当時）という年齢にしかない、かけがえのない状態を記録することが、私にとって一番大切なことでした」と演出の極意とも言える考えを披露している。
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