ハングルの基となったのが、4代王・世宗(セジョン)が1443年に完成させた「訓民正音(フンミンジョンウム)」である。しかし、なぜかその創製過程に関する動きは一切記録されていない。漢字を使わない新しい文字創製に、公然と反対する勢力も多かったというのだが……。
民族固有の文字
1418年に即位した4代王・世宗(セジョン)。
彼は、身分の高低にかかわらず、能力や才能がある人材を積極的に登用した。その結果、王の周りには有能な人材が集まった。
世宗はその中でも優秀な者を選別し、より能力を磨けるように集賢殿(チプピョンジョン)という研究施設を作った。
世宗から信頼を寄せられた集賢殿の学者たちは、その期待に大いに応えた。
とにかく、国王としての世宗には業績が多いが、その中でもひときわ輝いているのが、固有の文字「訓民正音(フンミンジョンウム)」の創製だ。
当時、中国大陸から伝わった漢字を使いこなせるのは、一部の知識層に限られていた。しかも、漢字では話し言葉を完全に文字にすることはできず、庶民は日常で使える文字を持っていなかった。
世宗は、愛する民が文字を読めず、自分の名前すら書けないことに心を痛めていた。その思いが、世宗に訓民正音の創製を決意させるきっかけとなった。
しかし、庶民が使える文字を作ることを、高官たちは快く思わなかった。当時、漢字の読み書きができることは一種のステータスであり、都合の悪い条例でも漢字で作製すれば大衆からの批判をかわすことができた。
そうした思惑もあり、民族固有の文字を作る作業は、秘密裏に進められた。そのことは、「朝鮮王朝実録」からも読み取れる。
なぜなら、その創製過程に関する記述が一切なく、1443年に完成してから突然訓民正音が出てくる。
そのため、訓民正音を、誰が、いつ、どうやって作ったのか、いまだ未知な部分が多く、現在でも諸説が唱えられている。
こうした創製にまつわる“謎”をモチーフに、世宗の治世を訓民正音をめぐる暗闘という視点で描いたのが2011年に大ヒットした時代劇『根の深い木』である。
訓民正音は、発音するときの口や喉の形をもとに作られた28個の基本記号の組み合わせからなり、あらゆる言葉を文字にすることができた。
公布は1446年。「朝鮮王朝実録」に登場してから実に3年もの期間を要している。新しい文字に反対する勢力との暗闘は、創製後も続いていたのである。
しかし、誕生しても訓民正音はあまり評価されなかった。
特権階級は自分たちの既得権を守るために訓民正音の普及を妨害。庶民に広く伝わらなかった。
訓民正音が“ハングル(偉大な文字)”と呼ばれて広く使われるようになったのは、19世紀の末からだった。以来、世宗はその功績が評価され、“朝鮮王朝最高の名君”と讃えられるようになった。
世宗が時代劇で本格的に取り上げられたのが2008年に制作の『大王世宗』。訓民正音の創製過程も興味深く描かれていた。
劇中、世宗は人間の喉の形をした模型を作り、発音時の動きを率先して研究していた。まさに、文化的にも“偉大な王”というイメージにピッタリだった。
提供:韓流テスギ
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