仁寺洞(インサドン)と言えばソウルでも有数の観光名所で、日本人観光客もよく訪れる。その仁寺洞の焼肉店に日本から嫁に来た女性がいた。かつて彼女に詳しく韓国の生活を語ってもらったことがあった。その思い出をひもとくと……。
自由な時間がない
仁寺洞の焼肉店。店主夫婦の夫は韓国人で、妻は日本人だ。
夫が映像を学ぶために日本に留学したときに2人は知り合った。結局、夫は父親の病気を機にソウルに戻って実家の焼肉店を継ぐことになった。
日本から来た妻は大変だった。
「韓国がどんな国かもわからなかったんです。でも、彼と付き合い始めても抵抗はありませんでした。日本人じゃないんだ、とチョッピリ考えましたけど、そんなに気にしたわけではありません。実際、旅行で来ているときはそんなに違和感がありませんでした。同じアジアだし、日本語も通じるところが多かったし……。あまり気にしないで韓国に来て結婚してしまった感じですね。でも、自分が甘かった。同じアジアでも、やはり外国は外国。現実は厳しかった」
そう言ったあと、妻は「正直言って、本当に大変でした」と目を潤ませた。
同じ年頃の日本人女性がソウルの免税店でブランド品を選んでいる最中にも、彼女は煙が立ち込める店の中で汗を流してカルビの皿を黙々と運んでいた。
妻はこう言った。
「日本の観光客のほうが私よりずっと仁寺洞に詳しいですよ。はっきり言って私には自由な時間がほとんどないんです。休みの日でも、彼の両親のところに行かなければならないし……」(ページ2に続く)