<Wコラム>「EXO」KRIS訴訟、韓国芸能界の中国人材への偏見を警戒する

<Wコラム>「EXO」KRIS訴訟、韓国芸能界の中国人材への偏見を警戒する

「東方神起」や「少女時代」、「SUPER JUNIOR」の弟グループの「EXO」。華麗なパフォーマンスと12人12色の魅力あふれるメンバーの活躍で、日本でも絶頂の人気を誇っている男性アイドルグループだ。そのメンバーの一人、中国系カナダ人のKRIS(クリス)が所属事務所の「SMエンタテインメント」を相手に専属契約無効の訴訟を提起した。

新曲「中毒(Overdose)」で積極的な活動が続いていただけに、ファンの衝撃は大きい。事務所側も、事前情報がなかったようだ。韓国芸能界では「第2のハンギョン事態」になるのでは、という懸念もある。

同じ事務所で人気アイドルグループ「SUPER JUNIOR」の中国人メンバー、ハンギョンは、2012年12月に所属事務所「SMエンタテインメント」を相手に専属契約無効の訴訟を起こしていた。韓国裁判所での裁判の結果、ハンギョンが所属事務所に勝訴し、現在は中国で独自に活動している状況。

中国のネット上では、ハンギョン訴訟の裁判で契約解除の理由であった「個人の発展を制限する」ことと、「所属事務所と方向性が合わない」と判断されたことが、今回のKRIS訴訟と非常に似ていると評価されている。しかも、KRIS訴訟の代理人弁護士とハンギョン訴訟の代理人弁護士は同一人物だ。

一方、自社アーティストに突然訴えられてしまった「SMエンタテインメント」は、「非常に当惑している」としながらも「『EXO』の現在の活動がスムーズに行われるように最善の努力を尽くすつもりだ。もちろん、事態の円満解決を目指している。」と公式見解を明らかにした。

今回の予想外の事態を受け、韓国のネット上では残念な気持ちを表すファンの声が様々な形で寄せられている。「本当に涙が出ちゃうよ」、「カムバックしたばかりだし、コンサートも控えているこの時期に、どういうことなの?」などといったコメントが多数。

現在「EXO」は今月7日に発表した新しいミニアルバム「中毒(Overdose)」のプロモーション活動を行っている。テレビ出演などを、グループ「EXO」を2つのチームに分け、韓国では「EXO-K」 、中国では「EXO-M」として展開している。10日には、KRISが入っている「EXO-M」が中国の国営放送CCTV の音楽ランキング番組で1位を獲得しており、翌日には12人の「EXO」全員で上海のコンサート(1万人規模)を盛況裏に終えるなど中国でもトップアイドル仲間入りを果たしたばかりだった。

しかし、今回の契約解除要求による訴訟問題で、最悪の場合、今後予定されているテレビ出演やコンサートのスケジュールに影響が出る可能性も出てきた。ただ韓国現地の業界関係者は、「コンサート開催まで残り10日を切っているので特別な変更なく予定通り進められるとみている。訴訟もまだ初期段階であり、本訴訟までは時間があるので、現在のカムバック活動は問題なく行われるだろう。」と予想している。

「EXO」の韓国コンサートは今月23日から25日までの3日間、ソウルのオリンピック公園体操競技場で開かれる予定で、今回もチケットは販売開始後、数分で売り切れるという人気ぶりをみせた。

「東方神起の悲劇」や「KARA騒動」の以降、アイドルグループのメンバーが所属事務所との契約を解除したり、無効化する動きが多くなっている。しかし、デビュー後3年も経たない若手アイドルグループのメンバーが、トップになったばかりの時点で所属事務所を相手に契約解除の訴訟を起こすのは非常に稀なこと。

企業文化を研究するある学者が、各国のストライキの特徴を分析したことがある。結果は、日本のストライキは「不景気」の時に起きる傾向があり、中国のストライキは「好景気」の時に起きる傾向があるとのこと。日本は「雇用の安定」を目指して、中国は「収入の上昇」を目指す傾向が強いとの解釈だった。

「EXO」KRISにも彼なりの事情や判断の根拠があったはずだ。しかし、提訴時期に対して韓国の文化で判断すると、「なぜカムバックしたばかりで、最高の実績を出している今のタイミングなのか」という疑問が残る。安定を目指す日本の文化で判断すると、「好景気を狙った立派な裏切り行為」として考えられなくもない。早速、韓国芸能界では、KRISを「食い逃げ」と批判したり、「中国系人材は信用できない」との暴言も出たりしている。

しかし、このような偏った見方は、差別の切っ掛けになり、グローバル化を目指してきたK-POPや韓国芸能界自ら苦しめる結果を生むだけだ。韓国芸能界は、構造的にガラパゴス的な進化が成立しないからだ。今の韓国芸能界は、日本や中国を視野に入れない限り、この10年間に上昇したコストに耐えられない。

しかも、「偏見」というのは、芸能界、つまりエンターテインメント業界の最大の敵である。現代人の退屈した生活を楽しくする仕事は、常に新しいことを目指し、創造性と多様性を追求する仕事である。個人が持つ国籍や民族、人種、宗教、言語、職業、出身など、特定の属性を理由にし、その個人を決めつけてしまう行為は、偏見を超えて差別にもなる。エンタメがそれを容認する瞬間、創造性と多様性は消滅するからだ。

いずれにしても、今回の「EXO」KRISの訴訟問題はデビューから間もない外国人材の「反乱」ということになりつつある。日本や韓国、そして中国の芸能界に少なからずの影響を与えそうだ。

2014.05.16