K-POPファンなら、「韓国3大芸能プロダクション」または、「K-POP界3大事務所」という言葉を一度は聞いたことがあるだろう。そう、近年のK-POPブームを牽引してきた人気アイドルたちが所属する「SMエンタテインメント」、「YGエンターテインメント」、「JYPエンターテインメント」のことだ。
王座のSM社は、日本のエイベックス(avex)と組み、BoA(ボア)や「東方神起」(トウホウシンキ)を日本でブレイクさせ、その後も「少女時代」や「SHINee」(シャイニー)、「f(x)」(エフエックス)、「EXO」(エクソ)など、数々の人気アイドルグループを送り出している総合エンターテインメント企業だ。まさに韓国の「ジャニーズ」と言える存在。
一方、YG社も「キング・オブYouTube」こと、「サイ(PSY)」を筆頭に、「G-DRAGON」に代表されるスーパーアイドル「BIGBANG」(ビックバン)やガールズグループ「2NE1」(トゥエ二―ワン)など強力なラインナップで、ますます存在感を強めている。
そして、JYP社にも、日本で高い人気を誇る野獣系アイドル「2PM」(ツーピエム)がいる。
21世紀に入り、韓国の歌謡界や「K-POP市場」はこの 「ビッグ3」を中心に回ってきた。
しかし、2010年代以降は、このトライアングルの一角が崩れ始め、新興勢力の台頭が顕著になってきた。
かつては、「GOD」や「ピ(Rain)」、パク・チユンなどのアーティストをヒットさせ、社長自らも現役アーティストとして活躍してきたJYP社がここ数年、業績低迷にあえいでいるのだ。
デビュー当初はライバル「少女時代」を上回るほどの人気だったガールズグループ「Wonder Girls」(ワンダーガールズ)のアメリカ戦略が失敗し、妹分の「miss A」も、メンバーのスジのソロ活動以外はパッとしない状況が続いている。「2AM」といったバラード系グループも実力の面では高い評価を得ているが会社の収益にはそれほど貢献していない。
SM社とYG社が専門経営陣の下でアグレッシブな事業展開を続けている間に、JYP社は「アメリカ活動」という可能性の低い博打に出たことで大きく水を開けられる形となってしまった。
業績の面でも、もはやJYP社に「ビッグ3」というタイトルはふさわしくない状況。
例えば、韓国の音楽市場における2013年第3四半期の上記3社が占める売上高の割合は「28.91 %」。個々には、SM社が15.46 % (1129億8000万ウォン)、 YG社は12.33 % (900億8000万ウォン)、 そしてJYP社はたった1.12 %(81億7100万ウォン)にとどまった。
では、CDセールス(フィジカル)とオンライン配信で分けて見てみよう。
韓国を代表するアルバム売り上げ集計チャートである「ガオンチャート」が発表した2013年の占有率ランキングトップ10にもJYP社の名前はない。
1位はSM社の38.9 %(259万3329枚)、2位は、「INFINITE」などが所属するウリムエンターテイメントの6.9 % ( 45万7656枚)、YG社は6.7 % ( 44万9686枚)で3位をマークしている。
なお、10位には「B.A.P」や「SECRET」が所属するTSエンターテイメントが2.6 %(17万5375枚)で名前を上げた。
オフライン市場(リアル店舗、フィジカル)の約10倍の規模に成長している韓国のオンライン(音楽配信)市場の占有率でも同じような状況が続いている。
YG社が5.6 %のシェアで1位、 SM社が3.9 %で7位を占めたが、 JYPの名前はここでもトップ10から消えている。
以上のようにK-POP業界では、JYP社の危機論がささやかれているが、同社内部でもこの状況は十分認識している様子だ。
同社のある幹部は、「昨年もJYPからはヒット作を出せなかった。当然今ではビック3と呼べる状態ではない。この現実を早く認めて、今年こそは昔の名声にふさわしく素晴らしい新曲を多数リリースしたい。」と現況を素直に語っている。
業界の権力再編が進む中、競争が激化する韓国の音楽業界で弱体化しつつあるJYP社だが、上場企業である以上、簡単に「ビック3」から退くわけにもいかないだろう。
早すぎるチャレンジで失敗はしたものの、アメリカで培ったJYP社ならではのノウハウを活かすことができれば、グローバル化が加速する今後のエンタメマーケットで何かしらの手がかりが見つかるかもしれない。
アイドルに限らず、常に幅広い音楽にチャレンジしてきた「JYP王国」の大反撃に期待してみたい。